歌織の作戦を聞き賛同した伊代は、すぐさま行動に出た。
朝の祈祷を終え、ムラに戻ろうとし始めた巫女たちを遮り、伊代は葉李菜を呼び止める。
祈祷の最中に強く神に祈っていたところ、伊代はとあるお告げを受けた。
間も無くこのムラに大災害が降りかかり、住む家は壊され、米や作物に大きな被害が出て、人々の生活を脅かすだろう。
大災害を退ける方法が一つあり、それは罪人として収監されている者たちの罪を精査し、無罪として解放する事である。
もちろん神のお告げというのは方便である。
歌織が考えた作戦とはこの方便で、神信仰の強いこの時代の人々ならお告げを素直に聞き入れてくれるだろうと踏んだ。
もし聞き入れなくとも台風はいずれ訪れるため、お告げが真実だったと身を持って理解してくれれば、その後に王との交渉がしやすくなると考えたのだ。
歌織の思い通りにことが進むか、伊代は多少の不安を抱えていた。
それに加え、お告げを受けたのは自分だと上手く演じることが出来るのかという、芝居に対する苦手意識もあった。
しかしこれ以外に考えられる方法は今のところ無く、歌織もスイッチが入ったように積極的で制しても無駄だと伊代は判断した。
仕方なく、東の果ての国から来た巫女という設定で葉李菜にその事を伝えた。
これから続く伊代の壮大な芝居の始まりである。
「伊代殿が巫女だったとは。初めからそう話して下さればよかったのに。そうであれば祈祷も、もっと前の列で共に行うことが出来た」
「いえ、そういうのは・・・わ、私たちの祈祷のやり方と少し違うので、一緒に祈ることは出来ないんです」
「そうだったか。またの機会にぜひ、東のクニの祈祷を見てみたいものだ」
伊代は頷くことも出来ず、ただ笑ってこの話題を終わらせた。
「それよりも葉李菜様、このクニに大災害が迫っているとお告げがありました。このままではクニ中の人々に甚大な被害が出ると思います。すぐに王に掛け合っていただけませんか?」
「罪人たちの恩赦、か。災いごとが起こるたびに恩赦を下されることはよくあるが、それはあくまでも災いごとが過ぎ去った後、神と民への感謝をする為のものだ。此度は順序が違う」
「あ、そうなんですね・・・・いや、そこを何とか、王様にお願いしていただけませんか?一刻を争うんです。嵐はこちらに向かっています」
葉李菜は空を見上げる。朝日が上り青々と輝く晴天には、雲ひとつない。
この爽やかな天気から、すぐに嵐がやってくるとはとても考え難かった。
周りに待機する巫女たちも、不審な面持ちをしている。
「本当に、嵐はくるんだよね?」
と歌織は伊代に耳打ちをする。
伊代は自信を十分に持てていないものの、祈るように葉李菜からの答えを待つ。
「本日の詮議も行われぬと聞いた。このまま先延ばしにするのも、クニの政の乱れに繋がるだろう。私から兄王に、直に上申する」
「あ、ありがとうございます!」
「それ、私たちも一緒じゃ駄目ですか?」
と、歌織が尋ねる。
神のお告げを直に受けた者が直接お伝えすれば、王も詳細がわかって深刻に受け止めてくれるのではないか、と葉李菜に説く。
王が深刻に受け止めるかという部分について葉李菜は首を傾げたが、それでも歌織と伊代の同行を許した。
ムラへ帰り次第、すぐに王への目通りを申し出るとのことだった。

