少しして伊代は、歌織を引き寄せる。
老婆と小麻李の耳に届かないよう、少し距離をとって話し始めた。
「実は相談したいことがあるの。信じてもらえるかわからないんだけど」
「どうしたの、何か悪いこと?」
「この世界に来てからね、変な夢を見るの。毎晩」
「夢?」
「どうしてもこの世界と関係ないと言い切れなくて。夢の中でね・・・・弥生時代のことを調べられるの。本を読んだりして、この時代の知識や出来事を知ることができるの。昨晩も夢を見たんだけど、その夢で知ったのは、嵐のこと」
「嵐?」
「もうすぐ大型の台風がやってきて、この地域は壊滅的な被害を受けるって。育てていた作物、特に稲に影響が出るらしいの」
「そう、大変だね・・・・でもそれって、予知夢なの?」
「予知夢とは少し違うんだけど、でもこれから起こるかもしれないって」
伊代は敢えて、夢の中の詳細を語らなかった。
夢の世界は決まって伊代の記憶の中の実家の書斎であること、そして亡くなったはずの父親が話しかけてくること。
歌織に混乱を与えないよう、言葉を慎重に選んでいた。
「それって、今の私たちにも何か影響があるの?」
「台風は近いうちに来ると思う。今でこそ穀物が少なくて米の収穫を心待ちにしているのに、それが全て被害に遭ったら飢餓の問題が出てくるかもしれない」
「伊代を信じない訳じゃないけど、今は台風なんかよりも、二人を牢屋から助け出すことが大事だよ。あと、この世界から脱出することもね。台風が来る前に脱出することが出来たら、一番いいよね」
歌織は悪気がある訳では無かったが、今の状況では牢屋にいる友人達のことしか考えられないようだった。
自分のことより友の安全を願うという老婆の言葉には共感したが、短い間でも世話になっているこのムラの人々のことを思わずにはいられない。
自分達の安全だけでなく、彼らにも危険が迫っていることを知らせたい。
伊代はその一歩が踏み出せないでいる。
伊代を踏みとどまらせている心の奥の感情が何なのか、伊代にはわからないでいる。

