伊代と歌織が着替え終えたところへ、夜の勤めを終えた阿湯太那が帰宅する。
歌織はすぐにでも綺那李の行方を問いただそうとしたが、伊代がそれを制する。
阿湯太那や兵士達は、綺那李が単独で牢に侵入したと信じ込んでいる。
ここで共犯がいたこと、それも他所者扱いされている歌織がその共犯だったと知られれば、重罪になる可能性がある。
阿湯太那は帰宅早々、昨晩の話題を加陽に伝えた。
「綺那李が昨晩、牢屋に侵入した。囚人たちに同情して勝手に水を与えていた様だ」
「また勝手に忍び込んだのですか。私の監視が甘く、申し訳ありません。ちゃんと私がキツく言い聞かせておきますので」
「いや、この度はいつものように軽く見過ごすことは出来ぬ。囚人たちに無断で賄いを与えることは重罪だ。しばらくの間、綺那李は家に帰らせず、こちらで預かることになった」
「それは・・・・綺那李に何か、大変な罰があるのでしょうか」
「それは詮議で判断されることだ。まぁ、その詮議もいつになるやらわからんがな。我が王がその気になるのを待つしかない」
聞き耳を立てていた歌織は、様子を伺いながら阿湯太那に尋ねる。
「あの、なぜ詮議は開かれないのですか?元々昨日の昼に行われる予定でしたよね」
「お前たちに話すことではない、関係のないことだ」
「いいえ、関係あります。私たちの友達が関わる詮議なんですから。それに綺那李ちゃんのことも心配です」
「綺那李のことは気に病んでもらわなくて良い。我らの娘にはより厳しい躾が必要だ。それとも・・・・昨晩の牢屋侵入の騒ぎ、綺那李に手を貸した者がいるわけではあるまいな?」
歌織は心臓を跳ね上げ、口を紡ぐ。
伊代は歌織を庇ってやり過ごすが、阿湯太那の警戒は解けていない。
「詮議の開催については全て王が定められることだ。詮議が延びたからといって、王の決定に易々と口を出してはいけない。不敬である」
と阿湯太那は威嚇し、朝餉のために加陽と住居の中へ姿を消す。
伊代と歌織は煮え切らない気持ちのまま、老婆に連れられて家を出た。
老婆は木の枝で作られた杖をつき、さらに小麻李が反対側の腕を持って、支えるように寄り添う。
外を出歩くことが久しく無かったという老婆は、すぐに息が上がっているように見える。
しかし疲れを感じさせず、変わらないニタニタとした笑顔を、伊代と歌織に向けている。
朝の祈祷と口実を作ったのは、昨晩のことについて話す機会を得る為だった。

