「また隠れて本を読んでいたんだね」
扉の方から、優しくて懐かしい声が聞こえる。
振り向けば、"あの" 男が扉の前に立っている。
その顔は靄がかかっているように見る事が出来ない。
しかし伊代は、亡き父親であると勘づく。
「お父さん、なの?」
その男は問いには答えず、伊代にゆっくりと近づく。
「小さい頃から難しい本を好んで読んでいたね。流石の私も、仰天させられたよ」
「本当にお父さんなのね。ここはどこなの?私の夢の中なの?」
「本当に聞きたい事は、その事かい?」
男は窓辺の机に腰掛ける。
窓から差し込む昼の光が、男の顔を遮る。
「本当に聞きたい事は・・・・私がいる世界について知りたい」
「答えられる事があれば、何でも伊代の力になるよ。手に取ったその本に書かれている通り、伊代とお友達がいるのは日本の弥生時代、各地にクニや王が存在していた時代だ」
「やっぱり、そうなのね。私、奴国の姫巫女様とお会いしたの。その方が言うには、邪馬台国が中心となって連合国を形成していて、その筆頭に卑弥呼という女王がいるって。本当に存在していたのね」
「何だい、伊代は邪馬台国の卑弥呼が存在していないと思っていたのかい?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、本当に同じ時代にいるのであれば、すごく嬉しい。ずっと文献でしか見ていなかった世界が、目の前に広がってるんだから。生きた人間の営みとしてね。これ以上に素晴らしいことってある?」
「伊代は、本当に感性が豊かな子だね」
「でも、本当にタイムスリップをしたのかな。私たちがいるのは、本当に過去の日本?それとも並行世界とか、存在していない別の世界なの?」
「どうして、そう思うんだい?」
「何だか、おかしな感じがする。弥生時代に行く前に、お城に飛ばされていたの。そこは "はじまりの城" だと言われて、弥生時代で私たちがするべきミッションやしてはいけない事の説明を受けたの。その人は侍みたいな格好をしていた。まるで例えるなら、アトラクションやゲームの世界に入る前のルール説明みたいな感じ。それにしてはリアリティがあるけれど、私にはそう思えた。この体験は、ただのタイムスリップではないのかな?」
「残念だが、私からはその質問に答える事が出来ない。私はその世界を見ていないからね」
「そっか、そうだよね・・・・」
「伊代は伊代の信じる通りに行動しなさい。そうすれば自ずと道は開けるよ」
「元の世界に戻ることはできるかな?お母さんにも会いたいし」
「その心配も大切だが、今は目の前の事に集中しなくてはいけないよ」
「目の前の事って?」
「伊代のお友達の危機、そしてこの国の危機だ」

