牢獄の囚人達は皆、眠っていた。
眠っているというよりも、体の不調から横にならざるを得ないという方が正しいだろう。
牢獄の中は薄暗くて湿気が多く、異臭が漂っている。
足元を虫が彷徨いているし、小型動物が這うような足音も聞こえてくる。
この中に一日中閉じ込められ、飲食もままならないのであれば、気がおかしくなったり病がちになっても不思議ではない。

先を進むと、聞き覚えのある話し声がする。
間違いなく友達二人の声であると歌織が気づいた時には、向こうもこちらの気配を感じて振り返っていた。

「太市、京平?」
「歌織?!」

久方ぶりに再会した太市と京平の顔色は、あまり良くない。
二人は何かを話していたようで、体力的にはまだ良さそうだと歌織は感じた。
太市は笑顔で歌織に話しかけるが、京平との距離感は未だ掴めず、その表情もわかりづらかった。

「ようやく会えた。あれから帰ってこないから心配したよ」
「ごめんな、歌織。でも、どうしてここに?伊代は?」
「伊代は無事だよ。この綺那李(キナリ)さんが、密かにここまで案内してくれたんだ」
綺那李は一度だけ太市たちを見るが、すぐに周囲の警戒に戻る。
逃げ道は一つしかない為、兵士たちが来るようならすぐに戻らなくてはいけないからだ。

「あ。今朝、話しに来てくれた子だよな?ありがとう。俺、太市っていうんだ」
「仲良しごっこは後にしてくれ。父様の兵士に見つかる前に、早く」
「あ、うん」

歌織はまず、肩にかけていた水筒を太市に渡す。
「きっと何も食べてないんじゃないかと思って、お水と食べる物持ってきたよ」
「おお、マジか!嬉しい、ここに来てから飲まず食わずで、意識朦朧としてたわ」
「それは言い過ぎ」
と京平は一言、口を挟む。
歌織の前でようやく口を開いたことに、歌織は安堵する。
水筒を受け取ると、太市は勢いよく水を飲み、水筒の半分ほどの量を残して京平に渡す。

「・・・・京平も、大丈夫そうで安心した」
と、歌織は京平に言う。素直になれず呟くような音量で言った一言だった。
対して京平の表情には再会の喜びはなく、歌織をじろりと睨みつけている。
その険しい威嚇の姿に、歌織は一瞬怯む。

「大丈夫そう?心配される筋合いねぇよ。水とか食料とか、欲しいって俺たち言った?勝手に心配して勝手に乗り込んできて、捕まるリスクとか考えなかったのか?牢屋から出る方法は俺たちで考えてるし、お前らは折角外で自由に生きていけてるんだから、この世界から脱出する方法だけ考えてろよ」
「いや、でも・・・・京平が無事でいるか心配で」
「そういう偽善者みたいなの、要らないって。ずっと迷惑だった。この世界、古代なんだろ?日本の大昔だろ?現代でもお人好しでしつこかったのに、この世界で同じようなことしてたら生き残れねぇぞ」

京平は荒々しく、歌織を威圧する。
ここまで京平が歌織たちに対して怒ることは無かった。それは学生時代も同じである。
歌織はいつもの我の強さがすっかり抜け、何も言えず呆然と立ち尽くしてしまう。

「まあまあ。歌織は俺たちのことを考えて、危険も承知の上で来てくれたんじゃん?」
と、太市は京平を宥める。
「俺たちのことじゃねぇ。所詮は他人のこと心配してるふり、エゴのためにやってるんだよ」
「そ、そんなこと・・・・」
歌織は何かを言い返そうと考えを巡らせるが、何も言葉が出てこない。
無言の歌織に対して、京平は水が入った水筒を突き返す。