綺那李(キナリ)さんは、男の仕事がしたいの?」
と、伊代は尋ねる。

「兵士になりたい。男の仕事だと言われたくない。女子にも屈強な力持ちはいる。私も今から背を伸ばして、体を鍛えて、男に負けない力を持ってやる。そうすれば誰も文句は言わないはずだ」
「でも、モテなくなるよ。きっと」
と、歌織が口を挟む。

「も、モテるって、何だ?」
「異性から好かれやすい、結婚とかの縁に恵まれやすいってこと」
「いいさ。結婚しなくたって」
「本当に?この時代の人たち、確実に偏見持ちだよ。普通と違う道に逸れたら、後ろ指刺されるよ。第一、あの気の強そうなお母さんが黙ってないでしょ」
「そ、それはそうだが・・・・」
「目標を持つのはいいことだけど、現実的ではないよね。ま、私も人のこと言えないけどさ」
と、歌織は自分の将来の目標に考えを巡らせる。

歌手になるのだと大見得を切ったはいいが、夢にはまだまだ手が届かず、実力を評価してもらえている自信もない。自分こそ現実的ではない方向に進んでいるのではないか、と近頃思い悩んでいた。
綺那李への強い牽制は、歌織自身への戒めでもあった。

「姉様は、父様に認めてもらいたいんです」
と、小麻李(コマリ)が大人っぽい口調で語る。
「父様のことを誰よりも尊敬しているから、父様みたいになりたいんです」
「こ、小麻李、煩い!」
「なるほどね」
と、歌織は納得した。

「でも、それでも挑戦することは大切だと思う」
と、伊代は綺那李に賛同する。
「女性だからって選択ができないのは、良くないことだと思う。綺那李さんが思い切って立ち上がることで、他にも同じ気持ちの女性たちを勇気づけることになるかもしれないし」
「どうだか」
と、歌織は乗り気でない。

「一番気がかりなのは、姫巫女様だ。女だからという理由で巫女になられているが、本来であればこの国の政を動かす立場にいてもおかしくないお方」
「姫巫女様って、葉李菜(ハリナ)様のこと?」
「そうだ。葉李菜様こそ、真の奴国王だと思う。実際王様は自由気ままな人だと聞くし、女という立場に一番苦心されているだろう」
と、綺那李は寂しげに空を見上げる。

「確かに、葉李菜様はとても素晴らしい方だと感じたな。聡明で、私たちにもお優しかった」
と、伊代はまた綺那李に賛同する。

歌織は同意せず、煮え切らない表情でいる。