綺那李は先陣を斬ってムラのど真ん中を歩いていく。
その歩き方は男のように、股を開いて一歩ずつ土を確かに踏み、その度にドシドシと音が鳴るようだ。
「姉様、待って」
小麻李は小さな歩幅で、姉に遅れないよう小走りで進む。
姉妹の歩く姿を後ろから眺める伊代は、その光景を微笑ましく思う。
「何だか、かわいいね」
「そう?」
伊代と歌織の異質な格好から、歩く度に村人達の好奇の目に晒される。
しかしその前を綺那李たちが歩くことによって、一種の牽制となっている。
それは姉妹が奴国兵長の娘だからか、はたまた綺那李の素行が悪目立ちしているからか。
どちらにせよ、伊代と歌織はムラに来たばかりの時よりも安心して出歩くことが出来ている。
「名前を聞いてなかったな」
ムラの門を出てすぐ、綺那李はようやく立ち止まり、二人を振り返った。
「私は奴国兵長・阿湯太那の娘、綺那李だ。こちらは我が妹、小麻李」
「さっきも挨拶しましたけど」
と、小麻李が口を挟む。
「私は桜井 伊代です」
「蜂谷 歌織」
「この門を抜ければ、奴国の領地ではあるがムラから外れる為人も少ない。誰にも聞かれずに済む。田を見に行くとは、ただの口実だ」
綺那李はしてやったりと笑う。
「だと思った」
「何、お見通しだったと言いたいの?小麻李」
「あんなに田の世話を嫌がっていた姉様が、自分から田を見に行くって言うんだもの」
「調子に乗るな」
綺那李は幼い妹にとやかく言われることを嫌い、語気を荒めて妹を黙らせる。
田への道といっても、長くはない。
人々の住居や集会所があるムラを抜けると、すぐそこに一面の田園風景が広がる。
各々の持分があり、世話をする田の範囲は大まかに定められているが、田の世話をする物同士で耕作や収穫を協力して行うこともある。
綺那李たちの家は兵長級ということもあり、より大きな面積の田が与えられている。
しかし家の働き手は、幼い姉妹と母、そして体の弱い老婆と女ばかりのため、阿湯太那の配下の家の者たちがよく田の世話を勝手出ていた。特に今は秋、収穫の時期が目前に迫っているため、折角の実りを無駄にさせまいと、目を光らせているらしい。
「だから実質、そこまで田を見にくることはないんだ。寧ろ田の世話に慣れてない子供は、稲に触るなって言われているくらい」
と、綺那李は田にまつわるあれこれを解説する。

