「歌織!待って!」
早足で歩く歌織の背中を、伊代は大声で呼び止める。
交差点で歌織はようやく足を止め、追いつくことが出来た。
「歌織、私たちも一緒に行くよ」
「え?」
「今、太市が会計してくれてるから。太市を待って、三人で一緒に行こう。その方が安心でしょ」
「う、うん・・・・」
歌織はようやく、我に返る。
もしこのまま一人で行っていたら。
行ったところで、酒が入っている状態の私と、精神状態の悪いであろう京平とで、まともな話が出来るとは思えない。
何をするつもりだったのか、と歌織は反省する。
間もなく、太市がこちらへ走ってきた。
「ありがとう、太市」
「全く、急に飛び出していくなよ。心配するだろうが」
「ごめん、勝手に体が動いてた」
と、笑う歌織。
「今日の分は、俺が特別に奢っておいてあげたから。ありがたく思えよ」
「それもごめん。私金欠でさ、初めから太市に奢られようと思ってたんだよね」
と、白状する歌織。
「ええ!?肝が座ってんな」
「ほら、信号が青になったから、行こう!」
と、歌織はさっさと伊代を連れて歩き出す。
後ろからブツブツと言いながら、太市もついて来る。