機織りを中断した加陽は、娘たちへ朝餉を食べさせる為に囲炉裏へやってきた。
「綺那李、何か言うことがあるんじゃないのかい?」
"綺那李" と呼ばれた姉は、肩を震わせる。
「え、えっと・・・・何かあったかな?」
「そそくさと妹と帰ってきておいて、上手く隠したつもりみたいだけど、母様の目は誤魔化せないよ。今日も祈祷をサボったんだろう」
「そ、そんなことないよ!一緒に行ったよね、小麻李?」
綺那李は妹に助けを求めるが、正直な小麻李は、はいもいいえも言えず、眉を潜める。
そのやりとりを見ていた老婆は、ガハハハと大口を開けて笑った。
「父様から聞いているよ、綺那李。もっとマシな嘘を考えるんだね」
と、加陽は綺那李の頭上に拳骨を喰らわせた。綺那李は唸り声を上げた。
小麻李はいつものことだから、と気にせず囲炉裏の前に座る。
加陽から粟の汁椀を渡され、姉妹は食前の祈りを行い、手をつける。
「全く言うことの聞かない子だね。あんなに近づくなときつく言われているのに、すぐに兵舎に出入りするなんて。女子が近づく所じゃないと言っただろう。家事や稲の世話を嫌がるから、せめてもの思いで巫女の修行に加えて頂いているのに、それすらもまともにやらないなんて。私はムラの女子衆に合わせる顔がないよ」
と、このような調子で長々と加陽の説教が行われる。
その間、綺那李は反省の顔をしながらも、母親の話を右から左へ流す。
専ら客人の伊代と歌織は、その光景を外野から見守るばかりだ。
「綺那李、話を聞いているんだろうね?」
「朝の祈祷に行かなくて、ごめんなさい」
「明日はちゃんと行くんだよ。何たってもうすぐ、あんた達はムラを出なければならないんだからね」
母親の説教から逃れようと、綺那李は粟を掻き込む。
空になった汁椀を加陽へ手渡し、すぐに立ち去ろうとする。
「ちょっと、どこへ行くんだい?」
「田の様子を見て来ようかなと」
「一人で行くんじゃないよ、子供に何が出来るんだい」
「小麻李も連れてくよ、あとお客様も。ムラを案内してあげていいでしょ?」
「案内するだけだよ。収穫前なんだから大事な稲に触るんじゃないよ」
綺那李は強引に妹の腕を引っ張る。
そして伊代と歌織に手招きをして、外に出るよう促す。
二人は目を見合わせ、仕方なく姉妹の後を追うことにした。

