伊代と歌織は、食べなれない粟の雑炊を何とか完食した。
食後の挨拶も見よう見まねで行い、加陽からの愚痴も無かった。
京平と太市らしき男たちの詮議は、昼過ぎに行われるという。
弥生時代に勿論時計というものはなく、どのようにして昼を過ぎたか確認できるのかわからない。
とにかくそれまでの時間に何をするべきか、二人は考えあぐねていた。
「あの、何かお手伝いできることはありませんか?」
伊代はおずおずと、加陽に尋ねる。
加陽は住居の隅で機織り機を操作している。
麻の糸から何かを織っているらしく、忙しなく手を動かしている。
「お客様にしてもらうことなんてないよ」
「でも、何もしないでいるのも、ちょっと・・・・」
「人手がいるようなことは何もないね。この家のことは私一人で回してるんだ。お願いだから、何もしないでいてくれ」
仕方なく二人は時間を持て余す。
しかし囲炉裏の前にいると、老婆にニタニタと見つめられて居心地が悪く、住居の外に出れば好奇の目に晒される。
見知らぬ土地の慣れない村の中で、二人は落ち着かなかった。
「ただいま!」
そこへ、この家の娘たちが帰ってきた。
修行中の巫女の装いをした姉は、家の中にいる知らない大人に驚き、声を上げた。
「母様!知らない人がいる」
「朝からうるさい。お客様だよ」
一方、後から入ってきた幼い妹は驚かず、丁寧に会釈をした。
早朝の祈祷で出会った、小麻李である。
「おはようございます」
「あ、さっきの巫女さんの集団にいた・・・・お邪魔してます」
「小麻李といいます。よろしくお願いします」
「え。小麻李、知り合いなの?」
「姉様、この人たちは姫巫女様のお客様だよ。朝の祈祷で会ったの」
幼い小麻李は客人相手にしっかりと受け答えをし、堂々としている。
一方、姉と呼ばれた女子は巫女の装束を少々着崩し、土で汚れているのがわかる。
そして客人に向き直ると、興味津々で珍しい格好に見入った。
「面白い格好。牢屋にいた異国人たちと、似たような着物だなぁ」
「牢屋にいた?・・・・それって、男二人?」
「そう。トーキョーから来たって男たち」
「きっと京平と太市だ。二人に会ったの?」
歌織の問いかけに、姉はコクリと頷く。

