夫婦の会話を聞きながら、無言で汁を掻き込む歌織と伊代。
粟で腹が膨れることはないが、見知らぬ土地での心細さや不安を少しでも満たしてくれることを願って、口に運んだ。
「もうすぐ収穫の時期ですから、嫌でも手伝いをさせますよ」
「そうしてくれ。昨夜の不吉な赤い月のせいで、兵士達を警戒体制に入らせた。こういう事が起こった後は、突拍子もない事がやってくるからな」
と、阿湯太那は歌織たちを一瞥する。
まるで二人の来訪が、"不吉” で "突拍子もない事" と言っているようだった。
「お言葉ですけど」
歌織は空にした汁椀を置き、阿湯太那に見合う。
わかりやすく悪口を言われたり、喧嘩を売られた時、黙ってないだろう、と隣で伊代は予感をしていたが、その通りに歌織は反論を始めた。
「私たちを見て、そういう失礼な事を言うの、やめてもらえませんか?赤い月が不吉だなんて、誰がそんなことを言ったんですか?不吉なことではありません。学校の先生だってそんなこと、子供に教えませんよ」
「が、ガッコウ・・・?」
「学校はこの時代には無いよ」
と、伊代は歌織に耳打ちする。「あと、先生もいない」
「えぇ?じゃあ、誰に月の事を習ったのよ。習ってないのに決めつけるのは良くないんじゃありませんか」
「不吉でなければ、何だって言うのさ」
と、炊事場から加陽の甲高い声が飛んで来る。
「あんた達は巫女でもないのに、あの真っ赤な月が何なのかわかってるのかい?」

