屈んで家の入り口を潜り、すぐに造られた段差を降りて、目の前に囲炉裏が掘られている。
囲炉裏の前で阿湯太那は腰を下ろし、その隣では老婆が静かに木の汁椀を啜っていた。
向かい側に、二人分の藁の敷物が敷かれている。
「お客様はそこに座りな」
と、ぶっきらぼうに指示をする加陽。
"お客様”と言っておきながら、扱いは少し雑のように二人は思った。
藁の敷物に腰を下ろしてすぐ、目の前の囲炉裏でグツグツと煮込まれていた汁物がよそわれ、二人に振舞われた。
汁物の中には白い米粒に似たものが入っていた。
昨日からの空腹で、歌織は一気に汁物を掻き込んだ。
しかし、その慣れない味に戸惑い、すぐに咳き込んでしまった。
「ちょっと、大丈夫?」
と、伊代が歌織の背中をさすってやる。
「ありがとう。雑炊かと思ったんだけど、味が・・・・この時代のお米って、こんな味なんだ」
「異国のお客様の口には合わなかったようだね」
と、加陽が無愛想に言う。
歌織の隣に座っていた老婆は、何も言わず歌織たちの様子を眺め、ニタニタと笑っている。
「これは米じゃないよ。粟さ。区別もつかないのかい」
「あ、粟?」
「稲の収穫前だからね、贅沢なことを言わないでもらいたいね」
向かい側に座る阿湯太那も、加陽から粟の入った汁椀を受け取る。
阿湯太那はすぐに口をつけず、汁椀を床に置き、目を閉じる。
何をしているのか、歌織と伊代は不思議そうに見つめる。
「食事の前にお祈りをしないとは、育ったおクニはどんなところだったんだろうね」
加陽は異国風情の二人を皮肉る。
阿湯太那は静かに目を開き、手を合わせてから汁を口にする。
手を合わせる動作を見て、二人はようやく察した。
この祈りは言うなれば、現代の "いただきます” という挨拶であり、食事を得ることへの感謝を表しているのだ。
歌織も伊代も当然、挨拶を知らないわけではなかった。
しかし日々の生活リズムの乱れ等から、食前に挨拶をする習慣を失いかけていた。
そのことに二人が気づくと、老婆はさらにニタニタと二人を笑った。
「綺那李は、戻っているか」
と、阿湯太那は炊事中の加陽に尋ねる。
「いいえ。小麻李と一緒に、朝の祈祷からまだ戻っていませんよ。そろそろ戻る頃だと思いますけどね」
「綺那李は祈祷に行っていない。先ほど囚人達の牢に出入りしていた。すぐに家に帰るように言ったが」
阿湯太那の証言を聞き、加陽は目を釣り上げる。
「あの子、またなの。ここ最近、巫女の修行に身が入っていないようなんです」
「身が入っていないどころか、ほとんど修行に参加していない。兵士の真似事をして、勝手に訓練所や砦の周りを彷徨いている」
「炊事や、田んぼの手伝いもしていませんよ」
「少しは妹を見習って欲しいものだ」
「年下の妹から見習うなんて、聞いたことがありません」

