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「弥生人って、みんな頭でっかちなの?」
歌織は歩きながら、先ほどの出来事について愚痴を漏らす。
阿湯太那の屈強な背中を追いかけているのだが、無言でスタスタと歩いていく兵長とはかなり距離が空いており、さすがに話は聞こえないだろうと信じ、歌織は不満を口にする。
「何なの、”礼儀”ってさ。こっちは別に敬ってない訳じゃないし、私なりの礼儀を持って話してんのにさ、”おまえの王ではない” って。冷たっ、客人に対して酷いよね」
「それはそうだよ。歌織は奴国の人じゃないんだから、歌織にとっての王様ではない」
「え、うそ。伊代は、弥生人の礼儀作法まで研究してるの?王様に対する話し方をマスターしてるってこと?」
「そういう訳じゃないけど」
「じゃあ、そういう言い方止めて。私は全部わかってるって思ってるみたいで、すごいムカつく」
「ごめん、悪気はなかったの。ただ、今まで必死に学んできたことが薄っぺらいように思えて、もっとこの時代の文化を理解したいの」
「いいんじゃない?この国の人たちは私たちのことを理解する気、無さそうだけど」
「でも、葉李菜様は違うよ。私たちを親身になって助けてくださったじゃん」
「それもわかんないよ。初めて会った私たちに対してあそこまで親切にする義理はないじゃん。何か企んでいてもおかしくない」
「どうだろうね…でも巫女さんだから、心が綺麗な人なんじゃないかな」
「心が綺麗、ね。無知なだけかも。弥生時代なんて、私たちからしたら原始人みたいなもんじゃん。脳みそも発達してるかな」
「歌織、それは酷いよ」
伊代は歩みを止めて、歌織に向き直る。
歌織が先ほどの件で不機嫌であることはわかっているものの、彼女の差別的な発言に、伊代は黙っていられなかった。
「よく知りもしないで、人のこと悪く言わない方がいいよ」
「ごめんごめん、言い過ぎたよ。とにかく急ごう?あの巨人、足が速くて見失いそう」
と、歌織はその場凌ぎの謝罪をして、伊代の手を引っ張る。
伊代は、話を流されたと感じた。
伊代は怒ったり、注意をする等の行為がとても苦手である。
こういう状況は学生時代にもよくあった。
対照的に歌織は、よく不満や愚痴を露わにする。
思いを真っ直ぐに相手に伝える為、それが火種となることも少なくなかったが、それにより得た信頼の方が大きかった。
伊代は密かに、歌織のその姿を見て、”怒る練習” のようなものをしていたのだが、中々に難しい。
こうして相手に温度感が伝わらず、流されてしまうのが落ちだった。
こういった場合、また改めて話そう、という事には結局のところならない。
埋もれてしまった心の声は積もり、やがて溢れ出てしまうものだが、その事をまだ伊代は理解できていない。
歌織に手を引かれるがまま、歩みの速度を上げる。

