「その者、控えよ!」
と、王ではなく村長が声を上げる。
「罪人との面会は固く禁じられておる。そもそも王の前でそのようなはしたなき事を申し上げるでない!無礼である!」
「では、誰にお願いすればいいんですか?」
歌織は食い下がらず、言葉に熱がこもっていく。
伊代は歌織を制するが、ヒートアップした歌織に声をかけられず、パーカーの裾を掴んでせめてもの主張をする。
「この場で論ずるに足りぬ話だ」
「じゃあ、どこで話せばいいんですか?それを教えてくれないと、引き下がれません」
歌織や伊代の様子を静かに見ていた葉李菜も、二人の心情を察して加勢を試みる。
「王よ、私からもよろしいでしょうか」
しかし睡眠不足で機嫌を損ねていた王は聞く耳を持たず、それどころか怒りが沸点に達し、大人達が恐れていた通りとなる。
「控えよ!誰もかしこも騒がしい、子供のように煩くしおって、其方らも牢に送られたいか!」
王の激昂により、大広間は一斉に冷える。全ての大人達が口を閉ざし、呼吸の音さえ控えた。
「姫巫女も例外ではない。らしくないぞ」
「申し訳ございませぬ」
「余が許したことの他、一切のことを禁ずる!余は疲れた」
と、王は勢いよく立ち上がり裏の個室へと下がった。
大人達は頭を下げ、王を見送ってから息を大きく吸い込んだ。
「まったく、礼儀を弁えない客人だ」
「異国の者というから、信用ならん」
「さっさと故郷へ帰ればいいものを」
先ほどは聞こえてこなかった悪口が、打って変わって飛び交い始めた。
正確には姫巫女の客人という手前、表立って口にされなかった二人への攻撃的な言葉が、王の態度により火蓋を切ったかのように二人に浴びせられたのだ。
「二人とも、力になれず申し訳ない」
と、葉李菜が声をかける。
「運が良くなかった。話に出た罪人というのは、二人の知り合いなのか?」
「そうなんじゃないかと思うんですけど、会ってみないと」
「そうだったか。しかし牢屋には、許可なく立ち入ることは出来ない。近寄ることも禁じられている。どうかこの後の詮議まで、待っていてほしい」
葉李菜は申し訳なさそうに、歌織と伊代に謝罪した。
しかし姫巫女という位を持っていながらここまで気さくに接する彼女を、歌織と伊代は悪く言うことは出来なかった。
「私は役目がある故、今後のことは兵長の奥方に世話を頼んである。そこで食事を用意してもらえる」
「ありがとうございます。色々と親切にしていただいて」
と、伊代が頭を下げる。
「良いのだ。せめてもの罪滅ぼしなのだから」
と、葉李菜は側仕えの女たちと共に、大広間の上の祈祷部屋へ上がって行った。
親切な葉李菜が去った後、歌織と伊代に近づいたのは、無愛想な兵長・阿湯太那だった。
濃い眉の間に皺を刻み、二人をジロジロと見回す。
珍しい服装を観察しているのだろうが、伊代たちからすれば背中に冷や汗が流れるような、耐えかねる時間だった。
「兵長、阿湯太那である。我が妻の元へ案内するよう仰せつかっている」
「よ、よろしくお願いします」
二人の返事も最後まで聞かず、阿湯太那は背中を向け一人歩き始める。
何を尋ねていいかもわからず、二人は無言のままその屈強な背中を追いかけた。

