「葉李菜、続けよ」
「はい。彼女達は、朝の祈祷も共に行いました。今朝の祈りは、いつもと比べても違いがございました。神は我らと、この来訪者の出会いを祝福しているようでした。神が、この来訪者たちをもてなすように、と思し召されているのです」
「その言葉、偽りはないな。全て、姫巫女の思うままにせよ」
「恐れ入り奉りまする」
と、葉李菜はまた頭を下げる。
王の決定に、大人達は戸惑いを隠せない様子である。
しかし若い王であっても、王は王であり、朝の寝起きの状態を除いては、威厳に溢れ一度の決定は絶対に覆さない。大人達は頭を深々と下げ、王の決定に従う意を示した。
「其方達、名は何と申すか」
と、初めて王に声をかけられる歌織と伊代。
二人は顔を見合わせ、垂れ落ちる額の汗を拭う。
「い、伊代と申します」
「か、歌織です」
「伊代と、歌織か。これまた、なかなか聞かぬ名だな。生まれは何処ぞ?」
「出身は、東京です」
「ちょっと、歌織・・・・」
と、伊代が小声で話しかける。
"東京”という場所がこの時代にないことは知っている。
同じ倭の国の中にあることは当然だが、この時代ではどう呼ばれているのかわからない以上、聞いたこともない地名を彼らに伝えるのは、不信感を煽るリスクがあると感じていた。
伊代は日本史の知識があるが故に、危機感を募らせた。
歌織は口を滑らせた、というような焦りの表情を浮かべた。
「トーキョーか。聞いたことはあるか?」
と、王は大人達に尋ねる。
大人達は顔を見合わせ、首を傾げるばかりだが、その中で唯一、手を上げるものがいた。
王は挙手をした男に、発言を許した。
「兵長、阿湯太那にございまする」
「存じておる。発言を許そう」
「は。我が王よ、私はその場所がどこに位置するかは存じませぬが、同じ地名を申す者を存じております」
「ほう。それは誰じゃ?」
「昨日、砦の外で不審な動きをしていた男二人を捕え、牢へ送っております。その者達も、姫巫女様の客人と同じく、異国の格好をしておりました」
歌織と伊代は、その話で気づく。
恐らくそれは京平と太市で、二人は誤って牢屋に捕えられてしまったため、昨日は帰ってこなかったのではないだろうか。
歌織は伊代と顔を見合わせる。

