大人達が整列し、王の入室を待つ。
その面々の中には、牢屋で京平たちを睨みつけていた兵長、阿湯太那の姿もあった。
「王のおなりにございます」
従者の一声で、噂話をしていた大人達は静まり返り、深々と頭を下げる。
葉李菜も王座の隣の茣蓙に座り、頭を下げて王を出迎える。
伊代と歌織も、大人達に従った。
大広間の正面から姿を現したのは、若い男だった。
若いと言っても三十代ほどで、顎に豊かな髭を生やしていた。
大きな欠伸をし、半分ほども開かない瞼で、どすんと王座に腰掛ける。
この男こそ葉李菜の兄で、奴国王の駕籠彦である。
「皆々、面を上げよ」
と、王は掠れ声で臣下達に挨拶をする。
「朝から何事じゃ。余は昨晩の赤い月の騒ぎで疲れているというのに」
「我が王よ、就寝の最中に申し訳ございませぬ」
と、高齢の村長が話し始める。
「実は先ほど、異国の者と思われる女子二人が奴国を訪れ、食料を分けて欲しいと申しております」
「異国人じゃと?」
「そこに控えておりまする。おい、そこの者たち、前へ」
歌織と伊代は、従者に指示を受け大広間の中央に移動する。
王は二人の服装や髪型をじっくりと見つめる。
「確かに・・・・おかしな格好をしておる」
「見たことの無い装いです。西の大陸でもこのような格好はしておりません。髪型も、女子にしてはとても短い」
と、伊代のショートボブを指さす。
「どこから来たのか尋ねましても、"東の方角" と答えるだけで見当もつかず、とても怪しく」
「その "とても怪しい" 異国人たちを、なぜこの主祭殿に入れたのだ?誰が許した」
王の不機嫌な呼びかけに、大人達は目を背け、恐れている。
「私でございます」
と、王の隣に座っていた葉李菜が声を上げる。
「葉李菜か。なぜ異国人を勝手に招いた?相応の理由があるのだな」
「我が王よ、客人をもてなす事に理由などございますでしょうか。この者達は道に迷い、腹を空かせていたところを、私が手を差し伸べました。我らは祭壇で出会いましたが、寝床もなく叢の上で一夜を明かしたのです」
「祭壇で?神聖な祭壇で寝起きをするとは、野蛮な奴らだ!」
どこかの大人がそう言ったのを皮切りに、大人達は否定的な意見を次々に申し立てた。
王は大人達の野次を聞き、暫くしてから咳払いを一つする。
大人達はそれを合図に、また一斉に静まる。

