京平たちが聞いた噂の通り、歌織と伊代は奴国の中心部に辿り着いた。
王妹の客人という肩書きを貰い、難なくムラの中に招き入れられたが、想像通り、村人たちの視線は痛かった。
パーカーやコートを羽織り、茶髪で艶のあるショートボブとポニーテールをしている二人は、異邦人、渡来人だと噂された。
姫巫女の前で表立って異議を唱える者はいなかったが、その視線が全てを物語っていた。
もともと奴国は海沿いにあり、大陸から渡来してきた人々とは交流があった。
しかし当然のことだが、その大陸の姿格好にも似つかず、素性も知れない二人は、怪しまれるばかりだ。
奴国に着いて早々、そのような視線を浴びせられ、葉李菜が兵士たち二人のことを説明する。
しかし兵士の顔色は悪くなるばかりで、二人は葉李菜と共に主祭殿へ通された。
主祭殿とはクニの中心であり、政治を司る大人達が集まりクニの重要事項を決める、クニで一番大きな建築物である。
歌織達が歴史の教科書で目にしたことがあるように、地上から真っ直ぐに伸びた柱で支えられている、高床式の建物で、梯子を昇って大人達の集まる大広間に入る。
そして最上階には、クニの最高司祭が神に祈りを捧げる神聖な部屋が築かれている。
奴国の最高司祭は、王の妹である葉李菜、その人である。
主祭殿の大広間に到着すると、歌織と伊代は部屋の隅に正座をさせられる。
日が昇ったばかりで未だ政治を行う時刻ではないのか、欠伸を噛み殺した男達が徐々に集まってくる。
大広間の中央には装飾された茣蓙が敷かれており、その上から白い絹の布が、茣蓙を囲うように垂れ下がっている。
恐らくそこが王座と思われるが、当人の姿はない。
「王はまだお目覚めではないのか」
と、葉李菜が臣下に尋ねる。
「王は昨晩、床に着かれる時刻が遅かったようでして」
「客人を待たせているのだ。彼女達は空腹ゆえ、早く朝餉を用意してあげたい」
「もう一刻、お待ちいただけませぬか」
「このようなこと、後回しでも良いのでは?異国からの客人に対して、大袈裟ではないか」
大人達は、異国人と思われる歌織達を簡単にムラに招き入れることを許さず、まずは審議にかけ、どのような処遇を下すのか話し合うというのだ。
まだ審議を行う前から、大人達は二人の見た目をあぁだ、こうだと言い合い、ジロジロと見定めている。
葉李菜も、ここまで大事になるとは思ってもいなかったようで、憤りを感じている。
「歌織殿、伊代殿、申し訳ない。朝餉にはまだ時間がかかるようだ」
と、葉李菜は頭を下げる。
「とんでもない!私たちは大丈夫です。それよりも、葉李菜様こそお時間を取らせてしまって」
と、伊代は丁寧に謝罪する。
「私は、これが仕事のようなものだからな。二人とも、要らぬ心配はせぬように。兄王は寛大なお方だ。それにどんな時でも、私が味方となるからな」
「ありがとうございます」

