「姫巫女様、この者達は信用なりませぬ」
と、気の強そうな白服が、女性に話しかける。
「倭国中を探しても、このようなおかしな衣を着ている者はおりませぬ。今も、東の国の祭祀をお尋ねになったのに、黙り込んでおりまする。用心なされませ」
「ほう。では、其方は倭国中の衣を見たことがあるというのか」
「い、いえ、そういう訳ではございませぬが…」
「小麻李にも尋ねてみるとしよう。この者達は怪しいと思うか」
と、先ほど白服の先頭に立っていた小さな白服に声をかける。
近くで見ると、小麻李というのは幼く、まだ七歳にもならないくらいの少女であった。
周りで慌て怯える大人の白服達の中で、小麻李だけは動じず、怪しい服装の伊代達を物珍しげに見ていた。
「怪しくないかと存じます」
と、満面の笑みを浮かべて “姫巫女” と呼ばれた女性に言う。
「そうか。幼い小麻李がそう申しておるのなら、怪しくはないのだろうな」
「ですが、幼子の申すことは…」
と、気の強そうな白服は煮え切らない様子だ。
「東や北の国々が邪馬台国の連合国となり、交流が盛んになったのは、つい今し方のようなものだ。気候や地形の違う国の者たちが、同じ衣を身に纏うはずはなかろう。それに、我らのような外の世界を知らぬ者が推し量るには、不相応だと思わぬか」
「はい、申し訳ございませぬ」
「あの、今何て言いましたか?」
と伊代が、姫巫女に尋ねる。
「今?どの部分を申しておる」
「たしか、邪馬台国…と言ってませんでしたか?」
日本史に疎い歌織も目を丸くする。
姫巫女の発言が正しければ、現代日本人なら必ず知っているであろう弥生時代の王国が、この世界に存在していることになる。
ようやく掴めたこの世界の手がかり、ここは日本の弥生時代ということになる。
「そうだ。邪馬台国と申した」
「ではここは、邪馬台国なんですか!?」
「いや、この国は邪馬台国の連合国、奴国である」
「な…こく」
伊代は必死に記憶を遡る。学生時代に習った歴史の教科書の中に、そのような国名はあっただろうか。いや、そもそも邪馬台国の高名さから、他に国名が書かれていたかどうかも定かではない。
「我はその奴国の巫女、葉李菜である」
「ハリナ、さん」
「無礼であるぞ!このお方は奴国中の巫女を束ねる長であり、奴国王・駕籠彦様の妹君であらせられる。敬称を忘れてはならぬ」
「てことは…王女様!」
歌織と伊代は、形ばかりではあるものの深く頭を下げる。その姿を見て、葉李菜は小鳥の囀りのようにクスクスと笑う。
「そこまで堅くならずともよい。だが、兄王様には気をつけよ。首を刎ねられるかもしれないからな」
と、二人を揶揄ってまた笑う。
「姫巫女様、そろそろ」
と、先ほどの気の強そうな白服が耳打ちする。
「そうだな。日がかなり昇ってしまった。今から我らは、朝の祈りを行う。其方達もどうだ?祭壇に無断で立ち入ったことを神にお詫びするか」
伊代と歌織は目を合わせる。確かに謝罪は必要かと思うが、神への祈り方の知識は全くない。
「よいよい、他の巫女達と共に後ろで見ておれ」
と、姫巫女は朝の日差しのような穏やかな微笑みを見せて、祭壇に登って行く。
他の白服達…つまり巫女達も、姫巫女に連なって登る。小麻李は二人に目配せし、”祭祀を見て欲しい” と期待の眼差しを向けている。
幼い少女の視線には抗えず、二人は小麻李と共に祭壇の外から見物することにした。

