歌織が指し示す方角には、白い衣に身を包んだ一行が列をなして向かってきていた。
髪の長さからして、恐らく女性の集団と見られる。黒い長髪の頭には、葉で出来た輪っかの冠を乗せている。
「なんか、怪しい集団だね」
と、警戒する伊代。
「どうする?」
「どうしようか…でも、ここでこんなにたくさんの人を見たの、初めてだし」
「隠れる?」
「うん、でも…」
そう二人で言い合っている内に、怪しげな白服集団はどんどん近づく。先頭を歩く背の小さな白服が、丘の上にいる二人に気づいた。
「姐様。あれは、なんでしょうか?」
「どうしたのです?」
と、背の小さな白服が指差す二人を、大勢の大人の白服達が見やった。互いに互いを捉え、空気がひんやりと凍りつく。
「な、何者!!?」
「我らの神聖な祭壇に、見知らぬ者達が!」
「何やら怪しげな格好…異国の者か!」
白服の女たちは大騒ぎを始め、入り乱れる。護衛の兵や男の姿もない事で怯えているのか、じりじりと後ろに下がっていく。
あまりの混乱した姿に、歌織と伊代は驚き、寧ろ冷静になって和解を促そうと目配せする。
「驚かせるつもりはありません。大事な場所とは知らず、すみませんでした」
しかし、そうやって丘の上から呼びかける歌織の声は、白服の女性たちの悲鳴によって掻き消されてしまう。収拾がつかず戸惑う二人に、列の後ろにいた一人の女性が声を上げる。
「皆、静まらぬか!」
虎の雄叫びのごとく声を響かせた、その女性を一行は振り返る。
白服の一行は落ち着きを取り戻し、その女性へ跪く。一際大きな冠を頭上に乗せる女性は、明らかに白服の一行のリーダーだった。
女性は二人にゆっくりと近づき、二人も恐れ慄いて “祭壇” と呼ばれた丘を降り、女性と同じ目線に立った。
「驚かせて申し訳なかった。其方達は、何処から参った?」
と、今度は小鳥が囀るような穏やかな声で、二人に声を掛けた。
歌織は伊代と目を合わせ、二人は頭を下げる。
「大事な場所とは知らず、無断で登ってしまいすみませんでした。私たちは道に迷っていて、決して不法侵入しようとした訳ではないんです」
「ふほーしんにゅー?」
と女性は首を傾げる。
「其方達の故郷は?」
「私たちは、東京…」
「いえ、東の国からまいりました!」
と、伊代が歌織の言葉を遮る。
“東京” という地名は、この時代にはまだ存在しないはずである。だとすれば、下手に地名を言って怪しまれるよりは、はぐらかす事が得策だと伊代は考えたのだ。
「東か。では、異国の者ではないな。安心した」
「え?何故、そう思うんですか?」
「倭国の東の果てには、海が広がっているからな。他に国はない。西の大陸の者でなければ、少なくとも同じ言葉を話す者。我らは同志だと、思うて良いか?」
「温かいお言葉を、ありがとうございます!」
「それにしても、まさか祭壇を知らぬとはな。東の国では、どのようにして神を祀っているのか」
歌織も伊代ですらも、返答に迷ってしまう。東の国の祭祀など、勿論知る由もない。
しかし、この女性の話から察するに、この白服の集団は神に仕える者であると、伊代は推理した。

