タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜



「伊代、伊代」

揺り起こされた伊代は、目を覚ます。
肌寒い夜の外気の下、伊代は叢で体を丸めて寝ていた。

「大丈夫?寝言が凄かったよ」
と、揺り起こした歌織は、伊代の顔を覗き込み様子を伺う。
「あ、大丈夫・・・・」

どうやら、先ほど夢だと思っていた世界は現実で、現実だと思っていた伊代の実家での出来事こそ夢だったようだ。少しの間伊代は固まって、事を把握しようとしていた。

「歌織、これって、夢じゃないよね?」
「夢だったら嬉しいけどね。見てよ」
と、歌織は西の空の満月を指さす。
「あんなに赤い月、今まで見た事ない。現実の世界じゃないみたい」

二人は交代で仮眠を取り、不審者への警戒と男子組二人の帰還を待っていた。
先ほどの夢ですっかり目が覚めてしまった伊代は、歌織の隣に腰を下ろす。

どれくらい眠っていたのか、伊代はスマートフォンを取り出して時刻を確認しようとするも、画面は真っ暗なまま動かない。夜の灯りのためにライト機能を使用したこと、そしてこの寒さによってバッテリーを消耗したことが原因と思われる。

「伊代、空がちょっと明るくなってきたよ」
と、歌織が空を指差す。
西の赤い月は段々と白くなり、山の間に沈んでいく。
空が東からゆっくりと白み始め、段々と赤みを増して来る。
はじまりの城にて武者から告げられた、『日の出』をもたらすことが四人に与えられた課題であった。

日の出を見ることの出来ない理由があるのだろうと考えていたが、その推測を裏切り、山の割れ目から美しい朝日が姿を表す。現代の日本でも見ていた、変わりようのない朝日だ。

しかし何も起こらない。二人は叢の上で寒さに震えながら、何かが起こることを待っている。約束した日の出は目前にあるのに、その “何か” は訪れる気配がない。

「お日さま、昇ったね」
と、伊代は呟く。
「家に帰れない、あのお城にも戻れない。何か理由があるのかな」

「クリア条件、的な?」
と、歌織は訊ねる。
「どっちにしろ、頭脳系は伊代の仕事だから、私にはわからないよ」
「え?私、頭脳系なの?」
「当たり前じゃん。この試練は歴史の知識が大事なんじゃないの、この世界はたぶん現代の日本じゃないし。そうなったら、私は野生児みたいに生きることは出来るかもしれないけど、知識があった方がめちゃくちゃ有利でしょ」

これまで予感していたが、言葉にしていなかったことを歌織は打ち明けた。やはりここは現代の日本ではない。タイムスリップをしたか、異国の世界へ放り込まれたか。どうしてそのようなことになっているのか、すべてははじまりの城の武者に聞くべきだっただろうが、無論ここにはいない。

男子二人組も昨日から帰って来る気配はない。もし何か非常事態に遭遇しているのであれば、ただ帰還を待つのではなく、知識を持って二人を捜索する必要がある。

考えていた事全てを、歌織は初めて伊代に伝えた。歌織は伊代のことを『頭脳系』と呼んでいたが、作戦や行動を思案する上では、歌織の方が優っていると言えるだろう。伊代は、これまで漠然としていた不安を払拭された。

「伊代の考えを聞かせて欲しい」
と、歌織は言う。数時間程度しか寝ていないはずなのに、その瞳はこれからの行動への熱意に溢れていた。

その思いに引っ張られる様に、伊代も考えを打ち明ける。
「たぶん、古代の日本じゃないかと思うの」
「古代?とすると、」
「縄文時代から弥生時代、古墳時代も考慮していいと思う。田んぼがたくさんある事を考えると、稲作が日本に伝わったとされる弥生時代以降が一番有力かな。あとは・・・・ここに住む人の暮らしをもう少し見たいかも」
「全然歴史に疎いんだけどさ、弥生時代ってこんなに人いないものなの?」
「人口の問題というよりも、住んでいる村の外に出ることが少ないんじゃないかな。クニとかムラっていう集まりが出来始めてるはずだから、そこから外に出ることを控えてる、とか」
「じゃあまずは、近くのムラを偵察してみようか」

二人の作戦会議はひと段落し、目的である “ムラ” がどの方角に位置するか、伊代は辺りを見渡す。夜が明けても、やはり見えるのは一面の稲だけだ。

しかし、その稲を掻き分けるように、こちらに向かって来るものを発見する。
「伊代、向こうから何か来るよ」