それから時間は流れ、歌織と伊代は丘の上を動かずにいた。
また人が現れないか辺りを見回すも、人影も無く、途方に暮れていた。
「お腹空かない?」
と、歌織は空を仰ぎ見て言った。
「そうだね、結構時間経った気がするし」
と、伊代は自身のお腹の虫の具合をみる。
「あの二人、遅くない?」
太陽は西に傾き始め、空は橙色に染まっていく。街灯も見当たらないこの田園地域が暗くなれば、確実に迷ってしまうだろう。食べ物を探すことも困難になるだろう。
二人は日が沈む前に、食料だけでも確保しようと、丘を降りた。
男子二人と入れ違いにならないよう、歌織は羽織っていたパーカーを置いて目印とした。
当てもなく道を歩いてみるが、コンビニや自動販売機は当然見当たらない。豊かに実っている稲が、唯一確認できる食料だった。しかし他人の育てたものを獲ることは気が引けるし、獲ったところで米を炊く調理器具もない為、早々に選択肢から除外した。
それにしても民家の一つも見当たらないとは、農家の田園にしてはどこか不可解であることを、歌織たちも薄々勘づいていた。
歩き回って疲れを感じ始めた頃には、日没がそこまで迫っていた。
田園のために引かれた水路を辿り、小川を発見した。そこで喉を潤し、川沿いに生えた木苺を収穫した。
川魚を何匹か見かけ、捕獲しようと歌織は浅瀬に入って行ったが、魚を手で捕まえることに長けている訳でもなく、苦戦する。膝まで水に浸かった頃、伊代も川に入って二人がかりでの手掴み漁となり、それでようやく一匹の川魚を仕留めたのだった。
林に入ることも考えたが、きのこや食べられる野草の知識も全くない為、誤って毒のある植物を口にすることは避けたい。野生の動物だって生息している可能性もある。
結局二人は、両手で持てる量の木苺と、一匹の川魚だけを持って丘に戻った。
しかし丘には相変わらず、誰もいない。
二人の空腹の具合は、男子の帰りを待つことも出来ず、歌織と伊代の二人だけで夕食を取ることにした。
調理のためには火が必要だが、ライターやガスも無しに火をつける方法を、二人は心得ていなかった。僅かな記憶を頼りに、林から小枝をかき集めて擦り合わせてみたものの、火は愚か、煙さえ出ない。
「私たち、サバイバルに向いてないね」
と、歌織は笑った。
結局、火を起こすことは諦めた。木苺は、小川で洗ったものをそのまま摘んだ。川魚は食べれず、腐らせてしまった。木苺だけでは、二人の腹を満たすことは出来なかった。
あっという間に日は沈み、夜が訪れた。
辺りは暗闇に包まれたが二人は持っていたスマートフォンのライトの機能を使って、自分たちの周囲を照らした。電波もネットも使えないスマートフォンの、唯一の使い道だった。
空は満天の星と月の光で、夜とは思えない程輝いていた。二人は叢に寝そべって、夜空を眺めた。稲の実りの季節は夜に少し冷えるようで、互いの上着をかけ合って暖をとった。