「キャンプ場とか?キャンプファイヤーしてたりして」
と、太市は考えられる冗談を呟く。
しかし冗談だったとしても、それくらいしか考えられることがなかった。丸太の砦も、どこまでも続く田園風景も、二人には疎遠な世界だった。
「様子がおかしい気がする。中を探ろう。道を尋ねている場合ではなさそうだ」
と、京平が言う。
二人は砦に近づこうと試みる。人の道には木の枠のような門が建てられているが、その先もさらに柵が続いているため、中の様子は確認できない。
門を潜らず、砦の横に回ってみる。砦の周りは堀となっていて、地面よりも一段盛り上がっている。さらに堀の周りは、先の尖った杭が無数に埋められており、砦を囲んでいる。
まるで外部からの侵入を警戒しているようだ。これでは、柵に近づいて中の様子を見ることも難しい。
砦は左右に広がっており、その規模も目視では判断できない程に大きかった。
「お城みたいだ。古代の要塞みたい」
と、京平は呟く。
「なんだよ。それじゃ、ここは古代なのかよ」
と、冗談まじりに言う太市。
しかし京平は、まんざら冗談ではないような反応だ。
「せめて、日本であることを祈るわ」
「なんだよ、それ」
「俺たち、ずっと現実ではあり得ないようなことばかり体験してるだろ」
「今この世界も、あり得ない世界だって言いたいのか?」
「まだ確信はできない。この地に住む人間とか、人の営みを見ないと判断は難しい。だけど、この砦と田んぼだけ見ると、昔訪れた東南アジアの国によく似てるんだ。電気もまだ通っていない、その土地の部族の村だ。それに近いものを感じるよ」
「ここは、日本じゃないのか?」
「その可能性も考えられる。もしそうだった場合・・・・歌織や伊代を二人だけにしておくのは、かなり危険だ」
田園があったことから日本だと判断したのは、時期尚早だった。日本であれば、見知らぬ旅人にも村人は優しく接してくれるか、そうでなくても身の危険はないだろうと鷹を括っていた。しかし、現地人の常識や文化が全く違う場合、不審者を見境なく襲うようであれば、真っ先に被害を受けるのは女性だ。
「一度、戻るか?やっぱり、別行動はやめた方がいいだろ」
と、太市は提案する。
「いや、もう少し様子が知りたい」
「京平!」
「もう少し観察すれば、何かわかるかもしれない」
京平はそのまま、さらに砦の向こう側まで進んでいく。
太市は友達を一人にはできず、やはり京平の後を追うしかなかった。
しかし、二人は気付いていない。この砦の内側に住む人々は、二人よりも格段に視力が良く、遠方に建てられている物見櫓から、二人の不審な様子は既に察知されていたのだ。