「一つ、貴殿方々に良い話をお伝え申し上げる。民が望む日の出を国にもたらす方法は、 “金”なり。金色の宝物が、世に格別なる日の光をもたらすと、巻物に記されておりまする」
と、絵巻物に描かれた金色の宝物を指差す。
その宝物は丸い形をしており、人の手によって掲げられ、それが日輪を表しているように見える。
「『金色の宝物』は、丸い形なのか?」
と、太市は尋ねる。
「大きさ、形、重さ等、全て判っておりませぬ。丸く描かれているのは、表現にございましょう」
「それ以外に、禁止事項は?」
「特段はござらぬ。今着ている物、手に持っている物、すべてそのままに、国へお連れ致しまする」
四人は、京平の部屋にいた時の服装、持ち物のままこの城に来ていた。
歌織のライブ機材等、それぞれの手荷物は部屋に置いてきてしまっている。
スマートフォンは持ち合わせているが、時刻は零時零分のまま止まっており、電波も立っていない。
「使えるかどうか、わからないけど」
と、京平は呟いた。
「その他、判らぬ点はござらぬか。であれば、そろそろ出立して頂きましょう」
武者は畳に広げた巻物を片付ける。
「従うしか、方法はないみたいだ」
と、太市が三人に呼びかける。
「本当にムカつく。好きでこんな事する訳じゃないし」
と、相変わらず不満を口にする、歌織。
「みんな一緒だよ。離れなければ、何とかなるよ」
と、自分に言い聞かせるように呟く、伊代。
京平は何も言わなかったが、逃げ出そうとする姿勢がないところを見れば、その決意は一目瞭然だった。
武者は四人の決断をしっかりと見定め、大きく頷く。
「好し。では皆々様、逸れませぬようにお気をつけて、行ってらっしゃいませ」
その武者の合言葉を皮切りに、今まで音の響かなかった世界に風の音が鳴り響く。
隙間風のような小音から、徐々に嵐のように轟々と激しさを増す。
風と共に肌寒さを感じ、四人はこれから起こる事に脅威を予感する。
体の中の臓器が一瞬、いつもの重力を感じたかと思ったその時、一斉に四方の扉が開かれる。
城内に強い風が立ち込め、四人の体は宙に浮き、城の外へ吹き飛ばされる。
突然の事態に悲鳴をあげながら、四人は真っ逆様に落ちてゆく。
暗闇かと思われた城の外は打って変わり、そこは大きな雲が立ちゆく大気圏であった。
真っ黒い空の上を、果てしなく下へ落ちてゆく。
宇宙は暗い紫色から徐々に白く、そして赤くなり、地平線から陽の光が注がれる。
四人は絶景に息を呑む余裕もなく、ひたすら絶叫している。
しかし四人は、互いに目の届くところに仲間がいる事を常に確認していた。
これから未知の脅威が襲って来るとしても、仲間が必ず側にいる事を信じていた。
再び、闇が訪れる。