「お待ち申し上げておりました」
と、侍の男が頭を下げる。
「あなたは誰なんですか?」
と、京平が当然の疑問を投げかける。
「お連れの方々が参りましたら、申し上げる所存」
武者は、顔面に笑みを貼り付けて絶やさず、京平にはそれが不気味に思えた。
この侍が閻魔大王の使者であるというのなら、侍姿であるという違和感はありつつも、納得をしてしまう程の異質さを醸し出している。
「いた、京平」
遅れて、太市、伊代、歌織は天守の裏側に到着し、ようやく石垣の階段を発見した。
石垣の上に立つ京平の姿を見定めた歌織は、対面する侍の格好をした男にもすぐに目を向けた。
「誰かと話してるみたい」
と、伊代も同じ方向を見て言う。三人は石垣の階段を駆け昇り、京平の横に並ぶ。
武者と対面した四人は、顔面に貼り付けられた笑みを警戒する。
「皆様、お揃いになりましたね」
と、武者は再び、お辞儀をする。
「京平、この人は誰?」
と、太市が尋ねるが、京平は無言で首を傾げる。
「この天守に登城されたのは、初にございますね。恐れながら、初めての折は拙者が城を案内差し上げる事となってございます。どうぞ、お入りくださいませ」
武者は丁寧に、初めての来訪客を城の中へと促す。
互いに目を見合わせて、この昔の言葉を話す侍に易々と従って良いものか思案する。
京平はお構いなしに、武者に従い玄関へ足を踏み入れる。
「おい、京平」
と、太市が呼び止める。
京平は仕方なく、足を止めてふり返る。
「何?」
「お前、怖くないのかよ。何されるかわかんないぜ」
「もう死んでるんだとしたら、何も怖くないでしょ」
京平の言葉は、まるで定められた運命に割り切っているかのような言い様だった。
再会をしてから、京平とまともに話が通じていない、言葉が空気中で掻き消えるような心地がする、と太市は思った。
「面白き仰り様だ。皆さま方、死にはしておりませぬぞ。まだ、ね」
と、武者の笑みは、より一層君の悪さを増す。
伊代は得体の知れない恐怖から、歌織の袖を強く掴む。
歌織は伊代の背中を押し、城内へ歩みを進める。太市も、それに続く。
「土足でお上がり頂いて、構いませぬぞ」
当然の礼儀として靴を脱ごうとした伊代に、武者は優しく告げる。