かなり距離があったように思う。
それとも、気持ちの悪い浮力のせいで、足がなかなか前へ進んでいないのか。
しかし伊代はようやく、光のもとに辿り着くことができた。
光の正体は、自ら輝きを放つ城だった。
堀や城門の姿はなく、天守閣だけが静かに佇んでいる。

「伊代!」
間も無くして、歌織と太市が姿を見せた。
城の輝きのおかげで、互いの姿をはっきりと認識することができた。
「無事に集まれたな」
と、ホッと息をつく太市。
「ナイスだったよ、太市」
「ありがとう、太市。でも、京平の姿は見てないの」
「俺も、呼びかけてみたんだけど」
「俺は、ここ」
と、輝く城の裏から、黒いフードを被った京平が姿を表す。
「京平!よかった、いたんだね」
「ったく、いるなら返事しろよな」
伊代と太市は再会を喜ぶが、歌織はそっぽを向いて目を合わせようとしない。
京平も、心配する仲間の顔には目もくれず、高い天守閣を見上げる。

「ここは、どこなんだろうね」
と、戸惑いを隠せない伊代。
「私たち・・・・死んだのかな」
と、真剣な顔で言う歌織。
「え?やめてよ、不吉だよ」
「だって、何だか生きてる感覚がしなくない?ほら、見てよ」
と、歌織は自分の頬を強く抓ってみせた。
「全く痛くない。夢かと思って、さっき試しに抓ってみたんだけど」
太市も釣られて、自分の頬を強く抓る。しかし痛みを感じないどころか、頬に跡すら残らない。
「やっぱりあの後、マンションから転落して死んじゃったんじゃない?」
「でも、地面に落ちる感覚はしなかったよね」

もし本当に転落していたら、と伊代は思考する。
マンションの三階から転落した場合、最悪の場合死に至ることもあるだろう。しかし高い場所から落ちる感覚や、地面に体を打ち付ける感覚をした記憶はない。何より、一人の人間を三人がかりで引っ張っていたのだから、京平に三人分以上の馬鹿力がない限りは、四人同時に転落することはないだろう。
仮に、四人全員があの時に命を落としていた場合。
この闇に包まれた世界は、死後の世界ということになるのだろうか。
死後の世界とは、三途の川を四十九日かけて渡るだとか、閻魔大王によって善悪を裁かれるだとか、天国と地獄に分けられるだとか、様々な話がある。しかし、このように光り輝く天守閣に出迎えられるという話は、聞いたことがない。

「どうしよっか?」
と、仲間の様子を伺う歌織。
「俺は、死んだなんて考えたくないよ」
と、太市が言う。
「家に帰らないといけないし、帰る方法を探そう」
「でも本当に死んでたら、そもそも帰れないんじゃない?」
「死んでないって。俺ら、ちゃんとここで生きてるじゃんか」
二人のやり取りに、京平は全く耳を傾けていない。天守閣の頂上を見上げ、目的地を定めた京平は、一人歩を進める。
「京平!どこ行くの?」
独断行動に気が付き、声をかける伊代。
「閻魔大王でも探してみる」
と、当たり障りもない言葉を残して、京平は城の玄関口へと向かう。
「京平、勝手に動いたりしたら危ないぞ」
太市の忠告も、京平の耳に入る様子がない。
身勝手な行動に呆れながら、取り残された三人も、京平の後を追う。