何日か後、すべての米の収穫の作業が終了し、収穫祭が行われる事となった。
収穫されたばかりの初穂を神に捧げる儀式であり、米から作られた酒や野菜等の供物を祭壇に乗せる。
太陽が真上に昇る刻、巫女達によって神聖な祈りが捧げられる。
葉李菜が中心となって初穂を両手に持ち、天に掲げながら踊る。時に祈り、跪き、そして踊る。これを次の巫女へ引き継ぎ、また同じ様に繰り返されるというものだ。
伊代は事前に巫女達から、この儀式のレクチャーを受けていた。
件の救世主であり自称・東の国の巫女としている為、収穫の儀式に参加しないのは勿体無いから、と葉李菜が提案したのである。
戸惑いながらも人々の期待を背負っている為逃れられず、葉李菜から直々に指南を受けた後、儀式に臨んだ。
大勢のムラ人達の視線を浴びながら、震える足で天に祈りを捧げる。
初穂を両手で掲げた時、昼の日光を浴びて稲は黄金色に輝いた。
その時、伊代の脳裏に微かに、 "はじまりの城” のあの武将の言葉がよぎった。
『民が望む日の出を国にもたらす方法は、 “金”なり。金色の宝物が、世に格別なる日の出をもたらすと、巻物に記されておりまする』
金色の宝物。それは一体何を表すのだろうか。
この天に捧げる稲穂は、自分たちが命懸けで守った奴国の大事な食糧であり、黄金色に輝いているといっても過言では無い様に思える。
奴国に初めて来た時も、一面の金色の田んぼに目を奪われた。
この田んぼを救うことが、自分たちを元の世界に帰還させる為の重要な手がかりになると信じたが、今日までその手がかりは一向に見つけられずにいる。
伊代はこの先の未来に不安を感じるが、そうやって悶々と悩むうちに自分の踊りの番が終わり、最後に葉李菜のもとへ稲穂を集め、儀式が終わる。
日が暮れると、収穫の宴が催される。
大人子供関係なく、焚き火の周りで踊り、歌い、収穫したばかりの食物を遠慮なく食する。これが人々の最上の喜びであり、一年で一番の楽しみである。
伊代達も宴に招待され、酒や食事を勧められる。
「此度は其方達のおかげで無事に収穫できたと言っても過言ではない。遠慮なく召し上がれ」
と女王・葉李菜が酒を勧める。
太市と歌織は酒好きであり、この時代の酒を試してみたいと意気込んで盃を差し出した。
口にしてみれば、勿論現代の日本で飲む酒と異なる舌触りに戸惑う。
食事も豪華絢爛と例えるにはいささか物足りず、味付けも薄く冷めた料理ばかりが並んでいる。しかし長い日数を牢獄で暮らしてきた彼らからすれば、料理の味は関係がなく、欲望のままに食べ物を口に掻き込んだ。
伊代達四人の座席は女王のすぐ隣で、本来であればそこはムラ長等の大人達が腰を下ろす場所である。しかしこの日は、そのムラ長の姿はない。
「彼奴も年だからな。これを機にムラ長を退くのも良いと勧めたのだ。今まで数十年にわたってその座を誰にも譲らなかったから、権力に胡座をかいていたことだろう。これからの奴国にそのような人材は不要だ」
と葉李菜は奴国の展望を見つめる。
「京平殿、太市殿、歌織殿については、詮議は行わない事とした」
「え、それってどういう意味ですか?」
「悪い意味ではないぞ。其方達の無実は誰が見ても明白。もともと牢獄に入る事自体がおかしな話だったのだ。先の王の時代に、事実無根の罪で収監された者は多いと聞く。彼らについても重大な詮議は行わず、阿湯太那兵長の指揮の下に過去の罪状を調べた後に釈放する事とした。たとえ本当に罪を犯していたとしても、此度の働きによって我らが助けられたのは事実だからな」
「葉李菜様、ありがとうございます!新女王様、万歳!!」
と太市は声高らかに叫ぶ。
感極まったのか、それとも酔いが回ったのか随分と顔が赤くなっていた。

