*蒼視点
俺は人口が四千人くらいの、北のとある町に生まれた時から住んでいる。ただいま四月初旬、まだ桜は咲いていない。
雪が解けてふきのとうやクロッカスなど春の花が顔を出している、そんな時期。眠気を誘う暖かい空気が辺りをうろついていた。雪がほとんど解けてコンクリートが丸見えになっている道を、ゆっくり歩く。
周りに生徒の姿が増え始め、今日から通う高校、『雪ヶ丘星彩男子高校』も見えてきた。
――男子校だから男子ばかりだな。
そりゃそうだろ。なんて心の中で呟きながら校舎に向かった。
***
「それでは、出席番号一番から自己紹介を――」
入学式が終わりホームルームの時間。
今日から担任となった二十代後半ぐらいの眼鏡をかけた男の先生、若木先生が生徒に指示をした。
「赤井優斗です。よろしくお願いします」
赤井という生徒が一番初めに自己紹介をした。赤井は小顔で顔立ちがはっきりとしていて、細く色白。髪色は金に近い。そして無愛想で態度がよくない。俺はこういう不良みたいなやつが嫌いだ。
――絶対にこんなタイプのやつとは、関わらないだろうな。
赤井優斗についての第一印象はこんな感じだった。〝合わない〟〝近づくと危険〟人間のその感覚は、意外と当たるらしい。俺は本を読むのが好きで、この知識も本の中で得た。でもまぁ、元々人にあんまり興味はないから、関係ないか――。
***
入学式から数日が経った日の下校時間。廊下に出ようとしてドアの前を歩いていた時、早歩きで追い抜いてきた赤井と肩がぶつかった。やつが振り向き、一瞬目があった。目が合ったのにひとことも謝らずに去っていった。
やっぱりあいつは感じが悪いな。
心の中で舌打ちをした。
*優斗視点
「赤井優斗です。よろしくお願いします」
入学式の日。
僕の席は廊下側の一番前。二十九人のクラスメイトに顔が見えるように、斜め後ろを向きながら言った。自己紹介をする順番は苗字が『赤井』である限り、大体いつも一番最初だ。本当は明るい表情で、趣味とか入りたい部活とか……他のことも言った方がいいのだろう。でも注目を浴びるのは苦手だから、できるだけ手短に済ませたかった。
中学の時なんて名前しか言えなかったから、少しはレベルアップしたのかな?
「黄金寺詩織です。趣味はアウトドアで……」
僕の次は王子様のような見た目をしていて、お金持ちだと噂の黄金寺。僕とは真逆で話上手で愛想も良く、素敵オーラも放っている。彼とは小中同じ学校で、その時は全く関わりはなかった。
僕は最近、引越しをしてこっちに来た。黄金寺も同じタイミングで、大きめなマンションがある隣町に引越してきたらしい。そんな共通点と、僕たちの席が前後だからなのか、初日から「仲良くしよう」と言ってきて、どんどん話しかけてくる。
次々と自己紹介が進んでいく。予想通りに周りはバンドやってますとか特技や趣味、あとは仲良くなりたいだとか。それぞれが自由に言葉を出し、不規則だけど整ったリズムで刻まれていく。
「高瀬 蒼です。よろしくお願いします」
整ったリズムが途切れた気がした。僕だけがしていたのと同じ、シンプルな自己紹介。
なんとなく気になって、まじまじと彼を見た。
すらっとしていて、身長は多分180cm以上はありそうだ。黒色で綺麗な髪の毛、さらっとした顔をしていて整っている。第一印象は真面目そうなイメージ。
派手な見た目をしている僕。そのせいで何も悪いことをしていないのに何故か不良だと思われる自分とは、正反対。
ずっと見つめていると目が合った。
目が合った瞬間、彼の眉間にシワが集まり、速攻で目をそらされた。
後日、そんな彼と肩がぶつかっちゃたけれど、怖くて謝れなくて。逃げてしまった。
***
俺は人口が四千人くらいの、北のとある町に生まれた時から住んでいる。ただいま四月初旬、まだ桜は咲いていない。
雪が解けてふきのとうやクロッカスなど春の花が顔を出している、そんな時期。眠気を誘う暖かい空気が辺りをうろついていた。雪がほとんど解けてコンクリートが丸見えになっている道を、ゆっくり歩く。
周りに生徒の姿が増え始め、今日から通う高校、『雪ヶ丘星彩男子高校』も見えてきた。
――男子校だから男子ばかりだな。
そりゃそうだろ。なんて心の中で呟きながら校舎に向かった。
***
「それでは、出席番号一番から自己紹介を――」
入学式が終わりホームルームの時間。
今日から担任となった二十代後半ぐらいの眼鏡をかけた男の先生、若木先生が生徒に指示をした。
「赤井優斗です。よろしくお願いします」
赤井という生徒が一番初めに自己紹介をした。赤井は小顔で顔立ちがはっきりとしていて、細く色白。髪色は金に近い。そして無愛想で態度がよくない。俺はこういう不良みたいなやつが嫌いだ。
――絶対にこんなタイプのやつとは、関わらないだろうな。
赤井優斗についての第一印象はこんな感じだった。〝合わない〟〝近づくと危険〟人間のその感覚は、意外と当たるらしい。俺は本を読むのが好きで、この知識も本の中で得た。でもまぁ、元々人にあんまり興味はないから、関係ないか――。
***
入学式から数日が経った日の下校時間。廊下に出ようとしてドアの前を歩いていた時、早歩きで追い抜いてきた赤井と肩がぶつかった。やつが振り向き、一瞬目があった。目が合ったのにひとことも謝らずに去っていった。
やっぱりあいつは感じが悪いな。
心の中で舌打ちをした。
*優斗視点
「赤井優斗です。よろしくお願いします」
入学式の日。
僕の席は廊下側の一番前。二十九人のクラスメイトに顔が見えるように、斜め後ろを向きながら言った。自己紹介をする順番は苗字が『赤井』である限り、大体いつも一番最初だ。本当は明るい表情で、趣味とか入りたい部活とか……他のことも言った方がいいのだろう。でも注目を浴びるのは苦手だから、できるだけ手短に済ませたかった。
中学の時なんて名前しか言えなかったから、少しはレベルアップしたのかな?
「黄金寺詩織です。趣味はアウトドアで……」
僕の次は王子様のような見た目をしていて、お金持ちだと噂の黄金寺。僕とは真逆で話上手で愛想も良く、素敵オーラも放っている。彼とは小中同じ学校で、その時は全く関わりはなかった。
僕は最近、引越しをしてこっちに来た。黄金寺も同じタイミングで、大きめなマンションがある隣町に引越してきたらしい。そんな共通点と、僕たちの席が前後だからなのか、初日から「仲良くしよう」と言ってきて、どんどん話しかけてくる。
次々と自己紹介が進んでいく。予想通りに周りはバンドやってますとか特技や趣味、あとは仲良くなりたいだとか。それぞれが自由に言葉を出し、不規則だけど整ったリズムで刻まれていく。
「高瀬 蒼です。よろしくお願いします」
整ったリズムが途切れた気がした。僕だけがしていたのと同じ、シンプルな自己紹介。
なんとなく気になって、まじまじと彼を見た。
すらっとしていて、身長は多分180cm以上はありそうだ。黒色で綺麗な髪の毛、さらっとした顔をしていて整っている。第一印象は真面目そうなイメージ。
派手な見た目をしている僕。そのせいで何も悪いことをしていないのに何故か不良だと思われる自分とは、正反対。
ずっと見つめていると目が合った。
目が合った瞬間、彼の眉間にシワが集まり、速攻で目をそらされた。
後日、そんな彼と肩がぶつかっちゃたけれど、怖くて謝れなくて。逃げてしまった。
***