*黄金寺視点


 俺らは二年になった。また赤井と同じクラスになれた。だけど高瀬も一緒だ。最近学校では三人で過ごしている。

「手を離したくないよ……どうしよう」
「俺も同じ。一生離したくない」

あいつらはこんな感じで、いつもこっそりいちゃいちゃしている。

 そんなふたりと俺の間には、大きな壁を感じていた。

 それでも赤井と一緒にいたいから、足湯もついていく。ついていくけど俺は暑がりだからすぐに足をお湯から出して、ひとりで休憩室へ行き、ごろんとして休んでいる。

 ぽわわわ~ん。

 目を閉じると赤井の残像。

 小さい時から手に入れたいものは全て手に入れてきた。大体お金で全てを解決していた。でも、赤井は、赤井の心はもうお金では買えない。 はぁ……。

「しおりーんプレゼント! これ、なーんだ?」

 赤井のことを考えていたら、咲良の声がしたから目を開いた。咲良と紫音くんが登場した。このふたりは癒し系親子で、俺の中で唯一心を清めてくれる存在だ。

 咲良は身内以外の年上の男の人が苦手らしい。だけど初対面の時から俺とは普通に話せていた。

「咲良、上手だな。イチゴのショートケーキかな?」
「ぶっぶー。パフェだよ。しおりん間違ってる! なんで間違えるの?」

 満開な笑顔だったのに、急に怒り出す咲良。最近よくぷんぷんされる。いや、三角に折った白い折り紙の上には、小さく丸めてある赤い折り紙が乗っていた。どうみてもイチゴのショートケーキだろう。

 でも咲良にとっては不正解。間違えて、怒られて……ちょっと落ち込んでいると紫音くんが「ごめんね」とこっそり耳打ちしてきた。

「いや、いいんだ。紫音くんたち親子は唯一癒し系の存在だから……」

「癒し系か……じゃあ、いっぱい僕たちと一緒にいようね」

 最近失恋した話を紫音くんにした。
 紫音くんは話をしやすくて、おおらかに俺の心を包んでくれる。今もそんな言葉を言ってくれて――。

 年上もいいかもしれない。

 紫音くんはいつもにこにこしてて、ほわほわしてて。俺は一人暮らしで気楽だけど、たまにひとりが寂しくなる。紫音くんと咲良が家にいたら癒されるだろうなぁ。

 紫音くんをじっと見つめていると、紫音くんが「しおりん、可愛いよね」って言いながら微笑んだ。多分、子供に対していう〝可愛い〟だろう。

 なんだろう、急に悔しくなった。

「紫音くん、俺、紫音くんに格好いいって言われるように、大人になるわ」
「応援するね、がんばってね!」

 紫音くんがふふっと笑いながら俺の頭を撫でてきた。
 そして一瞬だけ、格好いい大人の顔を見せてきて、ドキッとした。

 これが大人か……。

 大人の紫音くんも、全部の紫音くんを知りたくなった。


***