推しぬいゴーストシェフ

 春真っ盛り、空は青く全国的にお花見日和となった日。

 瞳子は、風邪を引いて臥せっていた。

「具合、どう?」

 お盆を手に、沙也葉が顔を覗かせる。

「ごめんね、みんなでお花見に行く約束だったのに……」
「いいのいいの。これ、食べられる?」

 お盆には、いちご大福と桜茶、そしてぬいぐるみたちが乗っていた。

「このいちご大福、手作り?」
「うん、みんなで頑張っちゃったー」
「ありがとう、食べる」

 瞳子は体を起こし、沙也葉はお盆をベッド脇に置いた。

「ほら、見て」

 沙也葉はスマホ画面を瞳子に見せた。

「ムゲフレで、お花見背景ゲットしたの」
「わ、きれい。花びらもちゃんと散ってる!」
「これでお花見しよう」

 瞳子は桜茶を一口飲んだ。
 湯呑みの中を漂う桜の塩漬けが、なんとも風流だ。

「桜茶を淹れてくれたのは、ヒノちでしょ」
「よくわかったね」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「来年は、本当のお花見に行こうね」
「来年……」

 瞳子はためらいがちに、沙也葉に尋ねた。

「来年も、この家に一緒にいてくれる?」

 沙也葉が驚いた顔で瞳子を見た。瞳子は焦り気味に髪をかきあげる。

「や、来年は私もちゃんと仕事探すし、沙也葉にあんまり負担かけないようにするから」
「負担って何? そんなのないよ!」

 沙也葉は瞳子の手を握った。

「来年も私、瞳子に甘えていいの?」
「甘えてるのは私だよ」
「じゃあ、お互い様だね」

 沙也葉は照れ臭そうに笑った。

「あ。カロたんの視線が痛い気がする」
「なぁに?カロたん、やきもち?」

 瞳子はカロたんを抱き上げた。
 今はもう裸エプロンの脅威はなく、正式な衣装をきっちりと着込んでいる。
 沙也葉はカロたんに向けて耳をそばだて、ふむ、とうなずいた。

「『おもちがかたくなるからはやくたべて』って」
「そっち??」

 二人は笑って、推しぬいたちの愛がこもったいちご大福にかぶりついた。

 柔らかく、甘く、酸っぱく。

 それは幸せな絆の味がした。


Fin.