リビングへ下りていくと、沙也葉が慌てた様子でキッチンをバタバタと走り回っていた。
「待って、あの、うわぁんっ!」
沙也葉は夕飯を作っていたようだが、瞳子に見られるのはまずいらしい。
「瞳子、先にお風呂入ってきて!」
ぐいぐいと押されるようにリビングを追い出されてしまった。
仕方なくお風呂に入ってリビングに戻ると、また沙也葉が慌てていた。
「早い! いつももっと長風呂でしょ!」
「いつもは用事を全部済ませてリラックスのために入るから……体洗うだけならこんなもんだよ」
「もー!」
沙也葉は頭を抱えながらキッチンからお皿を運んだ。
食卓に並べられたそれを見て、瞳子は目を疑った。
焼そばだ。それはわかる。ソースの香りだ。
しかし、野菜は焦げているし、麺はべちゃっとしている。
肉はゴロゴロ塊になっており、人参は皮つきのまま自由な形に乱雑に切られている。太い輪切りのちくわ、ちょっと玉ねぎの皮も入ってるっぽい。あれはキュウリの輪切りだろうか。キャベツ……じゃなくて、あのしなしな具合はレタスかもしれない。
料理はほぼ瞳子が担当していたので、知らなかった。沙也葉って意外と料理音痴なんだ……?
しかし一生懸命作ってくれたのはなんとなく伝わり、心が温かくなった。
「沙也葉、ごめんね。さっきは……」
「待って! まだだからちょっと待ってて。見なかったことにして、目を閉じてて!」
言われた通り目を閉じると、沙也葉がバタバタと駆け回る足音が聞こえた。
「……いいよ!」
目を開けると、焼そばの皿の横にぬいぐるみがいた。
グラデーションになった水色の髪、細く垂れた襟足、水色の睫毛と瞳。
これは……カロンのぬいぐるみ?
しかし
「なんで上半身裸なの!?!?」
瞳子が目を剥くと、
「お洋服難しくて、まだ出来てないのー!!」
沙也葉は顔を覆って叫んだ。
「え? まさかこれ、沙也葉の手作り……」
そうだ。カロンは実装から日が浅いためグッズ展開が少なく、まだぬいぐるみ系のグッズは発売されていない。
「未完成だけど、もう隠せないと思って」
沙也葉はしょんぼりとうつむいた。
「プレゼントして、驚かせたかったの……嘘ついてごめんなさい」
瞳子はぬいぐるみと沙也葉を交互に見比べた。
「じゃあ、実家に行ってたのは」
「服が難しくて、最初はお母さんを頼ったの。でも叔母さんがお裁縫得意だからって、お母さんが話をつけてくれて」
「叔母さん……?」
イケメンと一緒に入って行ったのは、もしかして叔母さんの家なのだろうか。
「あの、つかぬことをお聞きしますが、その叔母さんのご家族は?」
「叔父さんと、従兄弟が二人。高校生と中学生」
「高校生と中学生」
思い返すと、イケメンはかなり若かった気もする。
「叔母さんの家にいるって言ったら、理由をごまかすのが大変だと思って、嘘ついちゃった」
「沙也葉、彼氏はいないの?」
沙也葉は面食らった顔をした。
「いないよ! 東京でひどい目にあったし、もうしばらく男はこりごり」
「そっか……」
瞳子はほっとして、もう一度カロンのぬいぐるみを見た。
上半身裸の。
「いやこれやっぱり上半身どうにかしよう! 心臓に悪い!!」
「あ、そ、そうだね」
沙也葉はあわあわと周囲を見回し、お料理当番のエプロンをカロンのぬいぐるみに着せた。
「ちょ、裸エプロンになってますけど!?!?」
「ふわーお!」
二人でリビングを奔走し、マントのようにハンドタオルを羽織らせることでなんとか落ち着いた。
「ごめんね、私が不器用なばっかりに」
「ううん。裸には驚いたけど、カロンのぬい、すごく可愛い」
沙也葉はへらっと嬉しそうに笑った。
「良かったぁ。私ばかりいつも楽しんでるから、瞳子にもぬいを楽しんで欲しかったの」
「料理も苦手なのに、作ってくれてありがとう」
瞳子がお礼を言うと、沙也葉は微妙な顔をした。
「……気づいてないの?」
「え?」
「私は瞳子ほど上手くないけど、料理が苦手な訳じゃないよ」
「じゃあ、これは」
瞳子はまじまじと焼きそばを見た。やっぱり、料理に慣れない人が作ったようにしか見えないが……
「カロンぬいが初めて、瞳子のために一生懸命作った焼そばだよ」
「………………っは!?」
突き上げるような感情が、瞳子を襲った。
初めて。一生懸命。私のために?
「はあぁ!? なにそれ? 可愛すぎない???」
沙也葉はうんうんとうなずいた。
「いつもならカロンは素直に教えを請うけど、気分が落ち込んでる瞳子を煩わせずに、自力でご飯を作ってあげたかったんだよ……」
「あー!」
瞳子は頭を抱えた。
「カロたんは一生私が守る!!」
「この子の愛称はカロたんだね」
沙也葉はカロンのぬいぐるみを瞳子に差し出した。瞳子はぬいぐるみごと、沙也葉を抱き締めた。
「わっ」
「沙也葉、大好き」
沙也葉はふにゃっと笑い、瞳子を抱き締め返した。
「私も~。瞳子、大好き!」
その日の焼そばは、ヒノちが鰹節と青のりをかけてくれて、リュぴが生ハムを追加して、なんとも味わい深い一品となった。
「待って、あの、うわぁんっ!」
沙也葉は夕飯を作っていたようだが、瞳子に見られるのはまずいらしい。
「瞳子、先にお風呂入ってきて!」
ぐいぐいと押されるようにリビングを追い出されてしまった。
仕方なくお風呂に入ってリビングに戻ると、また沙也葉が慌てていた。
「早い! いつももっと長風呂でしょ!」
「いつもは用事を全部済ませてリラックスのために入るから……体洗うだけならこんなもんだよ」
「もー!」
沙也葉は頭を抱えながらキッチンからお皿を運んだ。
食卓に並べられたそれを見て、瞳子は目を疑った。
焼そばだ。それはわかる。ソースの香りだ。
しかし、野菜は焦げているし、麺はべちゃっとしている。
肉はゴロゴロ塊になっており、人参は皮つきのまま自由な形に乱雑に切られている。太い輪切りのちくわ、ちょっと玉ねぎの皮も入ってるっぽい。あれはキュウリの輪切りだろうか。キャベツ……じゃなくて、あのしなしな具合はレタスかもしれない。
料理はほぼ瞳子が担当していたので、知らなかった。沙也葉って意外と料理音痴なんだ……?
しかし一生懸命作ってくれたのはなんとなく伝わり、心が温かくなった。
「沙也葉、ごめんね。さっきは……」
「待って! まだだからちょっと待ってて。見なかったことにして、目を閉じてて!」
言われた通り目を閉じると、沙也葉がバタバタと駆け回る足音が聞こえた。
「……いいよ!」
目を開けると、焼そばの皿の横にぬいぐるみがいた。
グラデーションになった水色の髪、細く垂れた襟足、水色の睫毛と瞳。
これは……カロンのぬいぐるみ?
しかし
「なんで上半身裸なの!?!?」
瞳子が目を剥くと、
「お洋服難しくて、まだ出来てないのー!!」
沙也葉は顔を覆って叫んだ。
「え? まさかこれ、沙也葉の手作り……」
そうだ。カロンは実装から日が浅いためグッズ展開が少なく、まだぬいぐるみ系のグッズは発売されていない。
「未完成だけど、もう隠せないと思って」
沙也葉はしょんぼりとうつむいた。
「プレゼントして、驚かせたかったの……嘘ついてごめんなさい」
瞳子はぬいぐるみと沙也葉を交互に見比べた。
「じゃあ、実家に行ってたのは」
「服が難しくて、最初はお母さんを頼ったの。でも叔母さんがお裁縫得意だからって、お母さんが話をつけてくれて」
「叔母さん……?」
イケメンと一緒に入って行ったのは、もしかして叔母さんの家なのだろうか。
「あの、つかぬことをお聞きしますが、その叔母さんのご家族は?」
「叔父さんと、従兄弟が二人。高校生と中学生」
「高校生と中学生」
思い返すと、イケメンはかなり若かった気もする。
「叔母さんの家にいるって言ったら、理由をごまかすのが大変だと思って、嘘ついちゃった」
「沙也葉、彼氏はいないの?」
沙也葉は面食らった顔をした。
「いないよ! 東京でひどい目にあったし、もうしばらく男はこりごり」
「そっか……」
瞳子はほっとして、もう一度カロンのぬいぐるみを見た。
上半身裸の。
「いやこれやっぱり上半身どうにかしよう! 心臓に悪い!!」
「あ、そ、そうだね」
沙也葉はあわあわと周囲を見回し、お料理当番のエプロンをカロンのぬいぐるみに着せた。
「ちょ、裸エプロンになってますけど!?!?」
「ふわーお!」
二人でリビングを奔走し、マントのようにハンドタオルを羽織らせることでなんとか落ち着いた。
「ごめんね、私が不器用なばっかりに」
「ううん。裸には驚いたけど、カロンのぬい、すごく可愛い」
沙也葉はへらっと嬉しそうに笑った。
「良かったぁ。私ばかりいつも楽しんでるから、瞳子にもぬいを楽しんで欲しかったの」
「料理も苦手なのに、作ってくれてありがとう」
瞳子がお礼を言うと、沙也葉は微妙な顔をした。
「……気づいてないの?」
「え?」
「私は瞳子ほど上手くないけど、料理が苦手な訳じゃないよ」
「じゃあ、これは」
瞳子はまじまじと焼きそばを見た。やっぱり、料理に慣れない人が作ったようにしか見えないが……
「カロンぬいが初めて、瞳子のために一生懸命作った焼そばだよ」
「………………っは!?」
突き上げるような感情が、瞳子を襲った。
初めて。一生懸命。私のために?
「はあぁ!? なにそれ? 可愛すぎない???」
沙也葉はうんうんとうなずいた。
「いつもならカロンは素直に教えを請うけど、気分が落ち込んでる瞳子を煩わせずに、自力でご飯を作ってあげたかったんだよ……」
「あー!」
瞳子は頭を抱えた。
「カロたんは一生私が守る!!」
「この子の愛称はカロたんだね」
沙也葉はカロンのぬいぐるみを瞳子に差し出した。瞳子はぬいぐるみごと、沙也葉を抱き締めた。
「わっ」
「沙也葉、大好き」
沙也葉はふにゃっと笑い、瞳子を抱き締め返した。
「私も~。瞳子、大好き!」
その日の焼そばは、ヒノちが鰹節と青のりをかけてくれて、リュぴが生ハムを追加して、なんとも味わい深い一品となった。