この世界に転生して、本物の美男美女を拝めたことは、とても嬉しいわ。
けど、パソコンもタブレットもない世界とか、マジで無いっ!
どうやって、私の脳内にインプットした映像や写真を、表現すれば良いの?
まさか、女子高生時代に書いた夢小説とか?
いやいや、あれは私の中で黒歴史だわ……。
「あぁ~ お絵かきしたいっ! そうじゃないと死ぬ~っ!」
そう叫ぶと、私は牢屋の中を寝たままゴロゴロと身体を動かす。
騒ぎを聞きつけた兵士が、こちらへ向かって来た。
「やかましいぞ、ユリ! 『死ぬ』ってどうせ貴様は処刑されるのだっ! 静かにせんか!」
顔を真っ赤にして怒鳴っているが、私は何も怖くない。
だって、それよりもお絵かき出来ないことが一番の恐怖だから。
「あ、そうだ……」
岩みたいなブサイク兵士の顔を見て、思い出した。
デジタルでお絵かきできなくても、アナログで出来るんじゃないかしら?
紙とペン、それよっ!
「あの、すみません。ちょっとお絵かきしたいんですけど、紙と何か書けるものを貸してくれます?」
「はぁ!? 紙だと? そんな高価なもの、大罪人の貴様に渡させるかっ!」
「そんなぁ……」
このゲーム世界の設定、ガバガバだからよく分からないけど。
まだ紙やペンさえ、高価な時代なんだ。
でもなぁ、やっぱりお絵かきしたい。
生で見た美しいザリナと可愛いオリヴィアをびしょ濡れにさせたいもの……。
「描きたいっ! 描きたいっ! お絵かきしたいのっ!」
私は幼い子供のように、その場に寝転んで手足をジタバタさせる。
「や、やかましいと言っている!」
大の大人がその場で駄々をこねる姿を見て、引いているようだわ。
「だって、お絵かきしたいもんっ!」
「……くっ。わかった、紙やペンは無理だが、他のものを持ってくるから、静かにしろ」
「え? 本当?」
ブツブツとぼやきながら、兵士は一旦牢屋から離れる。
柵があって邪魔だから、分からないけど。どこへ向かったのかしら?
なにか書けるものを探しに行ってくれたら、良いな♪
しばらくすると、足音が近づいてきた。
「おい、ペンや紙は無理だが……これなら貸してやる」
そう言って手の平を差し出す。
手の上には、小さなチョークがある。
「えぇっ!? よりにもよって、このチョーク?」
「バカ者。これもけっこう貴重な物だ。私たち兵士が伝言用に使うものだ。そんなに嫌なら返してくるぞ!」
「わ、分かりました! それで十分です。ありがとうございます……」
柵越しにチョークを受け取ると、深いため息をつく。
お絵かきするのに、チョークなんて小学生以来よ……。