「あの、ユリ様。何度も申し上げていますが……。私とオリヴィア様は血が繋がっておりませんけど?」

 そう言って、首をかしげるザリナ。
 くぅ~ こういう天然なところも推しなのよね。
 
「そういう意味じゃないの。立場的にザリナちゃんがお姉さまで、オリヴィアは妹かしら。ほら、ザリナちゃんの方が背も高いし」
「なにを仰っているのですか? 私はオリヴィア様に使える、ただの使用人です。身分はオリヴィア様の方が上に決まってます!」

 うわっ、全然こっちの話が通用しない世界ね。
 参ったわ。

「ご、ごめんね。ところで、オリヴィアから何か用があって来たんでしょ?」
「そうでした! オリヴィア様は、アラン王子がいきなりユリ様を処刑すると言い出して心配しているのです」
「え、オリヴィアが?」
「はい、『これぐらいしか出来ないけれど』とこちらのクッキーを、ユリ様に」

 そう言って、編み上げのカゴを差し出す。
 でも、私は牢屋の中だから、受け取れない。
 先ほどまで怒っていた地下牢の兵士だが、オリヴィアの好意と聞いて、牢屋のカギを開けてくれた。

 ザリナが中に入ってくると、甘い香りが漂う。

「あ、なにこの匂い?」
「オリヴィア様がお作りになられた、クッキーですよ」
 
 そう言うとザリナは、カゴの上にかけていた花柄のナプキンを取ってみせる。
 中には色んな形をしたクッキーが、たくさん入っていた。
 星とか、お花の形もある。なんて女の子らしいの!?
 やはりオリヴィアは、妹で確定!

「お、おいじぞう……」
「全部ユリ様のですよ? たくさん頂いてください。オリヴィア様もお喜びになられますわ」
「ほんとっ!? じゃあ、いただきまぁ~す!」

 私がクッキーをむしゃくしゃ食べている姿を見た、ザリナは安心したようで。
 頭を下げると、地下牢から去っていた。

  ※

 食べ終えてお腹いっぱいになると、疲れた私は、牢屋の床に寝転がる。
 ベッドや布団も無いので、背中が痛いし冷たい。眠るには無理があるかな。
 それにしても、ザリナ。可愛かったな……。
 もちろん、可愛い手作りクッキーを用意してくれたオリヴィアも。

「ゲフッ……。あぁ~ お絵かきしたいなぁ……」

 死ぬ前に買った大型液晶タブレット、一回も使わずに死んじゃったもんね。
 もったいない。
 このゲーム世界じゃ、そんなものないよね。
 そこで私はあることに気がつく。

「ってことは、パソコンも、タブレットも無いってこと!?」

 あまりの衝撃に大声で叫んでしまう。

「じゃあ、”クリ●タ”は? ”ア●ビス”も? ”支部のスケッチ”さえ無いとか、どうやってお絵かきすんのよっ! 私は10年以上、デジタル派なのにっ!」