「おしカプとは、なんのことだ? カデル」
「いえ、私でも知らない言葉です。兄上」
この”マジーナ”王国の第一王子、アラン・ウィリアムズ。
燃えるような赤い髪が印象的で、その色と同じく性格はとても積極的だ。
何事も考えずに突っ込んでいくタイプ。
悪く言えば、ツンツンなアホ王子ね。
その兄とは対照的なのが、第二王子、カデル・ウィリアムズ。
碧く長い髪を首元で括っており、中性的な顔立ち。
アラン王子とは違い、本ばかり読んでいる静かな男子。
個人的には、眼鏡をかけているのでめっちゃ推しているキャラよ。
その二人が私の目の前に現れたのよ?
発狂するに決まっているわ。
「失礼ですが、ビーエル公爵は、婚約破棄を受理されると思われますか? ユリ様」
と眼鏡を光らせるカデル。
「へ? あ、私のことか……」
ダメね、”CV”が”スダケン”さんだったから、聞き入ってしまったわ。
てことは、兄のアラン王子は……もしかして?
「おい! カデル! そんなこと、いちいち聞く必要があるのか! 私は第一王子だ。父上である国王の次に偉いんだぞ!」
うわっ……相変わらずのアホ王子。
でも、声が良いのよね。だって、”CV”が”松たん”だもの……。
鼓膜がずぶ濡れよ。
「兄上、またそんな自分勝手なことを……。それに、オリヴィア様のお気持ちは、考えておられるのですか?」
「もちろんだとも! 私が必ずオリヴィアを幸せにしてみせるっ!」
二人が対峙している間、私は思い出していた。2年前に現実世界で作った同人誌のことを。
作品名は……。
『第二王子は、深夜に兄上の部屋に忍び込む』
だったわね。
もちろん、18禁のBL本。
けっこう人気で、コミケではすぐ売り切れたからお客様に迷惑をかけたわ。
もっと刷っておくべきだった……。
思い出したら、興奮してきた。
爆発しそう……。
「あーーーっ! もう我慢できない! 早く絡めたいわっ!」
私の叫び声に驚く、二人の王子たち。
「な、なんだいきなり……?」
「カラメルとは?」
呆然としている二人を無視して、私はアラン王子とカデル王子を横に並ばせて、無理やり身体をくっつける。
そして、少し後ろに下がると、自身の指でカメラのポーズをとった。
さながら、映画監督の気分だ。
「いいねぇ~ 二人とも、もっと寄ってよぉ~ キスしてもいいよ?」
私の脳内では、もう既に二人は官能の世界に入っている。
「私がなぜ弟のカデルと、き、キッスなどしないといけないのだっ!」
「そうですっ! ユリ様。兄上に婚約を破棄されて、ショックを受けているのでは?」
心配するカデルを無視して、抑えきれない煩悩を彼らに押しつける。
「ヘヘヘッ……。ねぇねぇ、二人ともさ。今どんな気分? あなた達兄弟は、私の作品でオリヴィアを置いてきぼりにして、一晩中愛し合っていたのよっ!」
それを聞いたアラン王子は肩を震わせて、何かを必死に堪えているようだ。
髪の色みたいに、顔が真っ赤だわ。
「ぶ、無礼者! ユリ・デ・ビーエル、貴様は処刑だっ!」