「レオン皇帝陛下、こちらをご覧になってください」

 そう言うと、カデルが用意してくれた薄い本を差し出す。
 私とオリヴィアの二人で考えた18禁のショタ同人誌。
 作品名は……。
 『ランベルト様は、おじさんのホットなキャンディーが忘れられない』
 

「珍しいな……このような色鮮やかな書物が貴国には存在するのだな」

 表紙の可愛らしい少年だけを見て、まだ内容は分かっていないようだ。
 全編カラー同人誌に触れて、その製法に驚くレオン皇帝。

「フッ……」

 思わず声が出てしまったわ。
 その中身を知らない皇帝の姿を見ると、どうしてもね。

 物語の内容はこうだ。
 現実世界に転移した第三王子のランベルトは、見慣れない日本の公園を見て興奮する。
 しばらく、すべり台で遊んでいると喉が渇き……。
 そこへ知らないハゲのおじさんが声をかけてくる。

『坊や、見かけない子だね?』
『うん! 僕はランベルト。第三王子なんだ』

 ゲームの世界から転移してきたことなぞ、おじさんは気にせず。
 ランベルトの太ももばかり眺める。
 
『へぇ、王子様なんだ。ところで今日は暑いね。アイスでも食べないかい?』

 とアイスキャンディーを差し出す。

 初めてアイスを見たランベルトは大喜びし、その場で食べ始める。

『どうだい? 美味しいかい?』
『うん! とってもおいしいよ! でも、大きくて太いから食べにくいや……』
『そうか……じゃあ、”こっち”のならどうだい?』

 おじさんはそう言うと、何を思ったのかズボンを……。
 と言った感じだ。

 レオン皇帝は黙って、同人誌を眺める。
 眉間に皺を寄せて。
 ページが進むたびに、顔が真っ赤になっていく。

 読み終えたころには、同人誌をテーブルに叩きつけた。
 そして、イスから立ち上がると怒鳴り声を上げる。

「謀りおったなぁ! ユリ・デ・ビーエル!」

 そんな彼の顔を見て、私は笑みを浮かべる。

「一体なんのことですか? レオン・アンドレ皇帝閣下」

 私は確信していたのだ。
 彼が、レオン皇帝がショタコンであることを。
 あのランベルトに対する、動揺や態度を見て。

 己の力だけで成り上がった皇帝も、また一人の人間だ。
 性癖だけはどうしても、嘘をつけない。
 だからと言って、現実世界でショタに手を出すのは邪道。
 しかし創作の世界でなら、自由だ。

「ユリ女王! 貴様は私のことを……」
「レオン皇帝……悪いことは言いません。自分に噓をつくなんて、とっても悪い生き方だと思いますわ」
「くっ……」
「自分の性癖は、受け入れてあげましょう」

 私のその言葉を聞いて、レオン皇帝は力が抜けてしまったようで、イスに腰を落としてしまう。

「全て、見抜かれていたか……私も老いたものだ」
「いいえ。老いたのではありません。むしろ今日からが始まりだと言えるでしょう!」
「何が始まったというのだ?」
「レオン皇帝はショタを愛し、今まで共にした剣とは別れを告げるのです!」
「私に剣を捨てろというのかっ!?」
「ペンは……いや、『ショタは剣より強し』という言葉をご存知ありませんか!」
「は? それよりこの作品、いくらで譲ってもらえる?」
「それはサンプル本ですので無料で差し上げます! もし、もっと欲しいのならば、今度開催されるコミケへ来てください」
「う、うむ……」

 こうして、レオン皇帝の侵略を無事に阻止できたのだった。