剣の帝国”インフィニティ”、私たちの住む魔法の国マジーナとは対照的な国家だ。
 魔法などの力に一切、頼ることはなく。
 己の力だけを信じる人間たちが集まった国。
 
 鋼のような肉体と剣だけで、今までたくさんの国へ侵略してきた。
 近年、その勢力を広げていると聞いていたけど。
 まさか私たちの元まで近づいているとは……。

 
「女王陛下、神聖なる我が国、”兜くんとユリーナ”を汚すものなぞ、許せませぬ!」
「う、うん……そうだね」

 国名が変わったのを忘れていたわ。

「しかし、私たちだけで勝てると思っているのか? カデル」

 いつものアホなアランなら、我先にと剣を抜くと思っていたのに。
 案外、冷静なのね。

「兄上! 野蛮な皇帝なぞに臆されるのかっ!?」
「別に臆してないさ。でも、あの”レオン”皇帝だぞ? お前も噂だけなら知っているだろ」
「うう……」

 本来、このゲーム世界のには、剣の国インフィニティなど存在しなかった。
 まさか隠しルートとか?
 いやいや、そんなはずはない。私はこのゲームを何十回も周回クリアしたんだ。
 見落としたところなんて……。

「だからと言って、アラン様もカデル様も黙って、この国を渡すと言うのですか? 私は嫌です。女王様が企画されたコミケをまだ体験していません!」
「オリヴィア様の言う通りですわ! 私も今回のコミケに売り子として参加しますもの……」

 みんなどんだけ、コミケに命を賭けているのよ。
 まあ気持ちが分からないでもない。
 ここは私が出るとしますか。

「カデルよ。ちょっと一つ、レオン皇帝に手紙を届けてくれまいか?」
「え、手紙ですか?」
「うむ、私にいい案がある……」
「?」

 ~それから、数日後~

 いきなり武力による衝突は避けたかったので、皇帝”レオン・アンドレ”へ使いを出した。
 我が国へお招きし、宮殿内で交渉を試みることにしたのだ。
 女王である私と、皇帝のレオンと二人きりで。

 
 長いテーブルの隅に、一人の男が座った。
 傷だらけの大きな鎧をまとった初老の男。
 銀色の髪は全てオールバックにして、長いヒゲを触っている。
 黙っていても、こちらにまでその存在感が伝わってくる。

「して……ユリ・デ・ビーエル女王陛下よ。今回のお招き、一体どんなお話か?」

 レオン皇帝が口を開いた瞬間、ものすごいプレッシャーで身体が押し潰れそうになった。
 だけど、ここで負けられないのよっ!

「レオン皇帝陛下……此度の会談への参加、誠にありがと……」

 そう言いかけた瞬間、怒鳴り声が上がる。

「たわけっ! そのような話はいらん! さっさと要点だけを言え!」

 くっ、このクッソジジイ!

 会談が始まる前にオリヴィアから聞いた話だが。
 私が出した手紙と一緒に、最新作の百合マンガを同封したが、それを読んだ皇帝は「くだらん」と破り捨てたのだとか。
 分からない……この男の地雷が。

 私が黙り込んでいると、レオン皇帝がテーブルを人差し指で叩き始めた。
 かなりイラついているようだ。
 どうしよう? 百合が地雷なら、BL行っちゃっても良いの?
 危うく、この場で斬り捨てられたりして……。

 その時だった。
 今回の会談は極秘裏に進めているので、城内にいる兵士たちも近寄らないよう、注意していたのに。
 大きな扉が勢いよく開かれた。

「あははっ! こんなところに来ちゃった!」

 と悪びれることもなく、自身の頭をかいてみせる少年。
 金色の美しいショートヘアで、大きな瞳を輝かせている。
 その名は、”ランベルト・ウィリアムズ”。

 このゲーム世界における隠し攻略対象で、元第三王子だ。
 アランとカデルから、年の離れたショタっ子。

「ユリお姉ちゃん、僕も混ぜてよっ! 一緒に遊ぼっ!」
「……」

 何しに来たの、この子。