男性は百合、女性たちはBLというジャンルで、この国の人間全てを洗脳できた。
民草どもは私のことを前国王ヒューイより、民に優しい女王様だと言う。
私の調教もあってか、国名が魔法と百合の国ユリーナにBL要素が追加された。
その名も、百合と汗だくな男たちの国、”兜くんとユリーナ”。
私が考えた国名ではない。カデルが考えたのだ。
毎日、玉座の上に腰をかけ、弟子たち。アランとオリヴィアの原稿をチェックする。
私のことを師匠と言い、玉座の下にある冷たい床で正座している。
木箱を机にして、原稿を描くのだ。別に私がそうしろと言ったわけじゃない。
この子たちが勝手に始めたことよ。
一番弟子のカデルだが、彼は読み専だと言い張り、既に卒業済み。
彼の作業はもっぱら原稿のコピー。
百合を担当しているアランが、嬉しそうに書き上げた原稿を玉座の前に持ってくる。
「陛下っ! 今回の作品には自信があります! 今度、開催されるコミケにも出せると思います!」
「ほう……よほど自信があるのだな。良い心掛けだ。では、拝読させてもらう」
「はい!」
アランが考えた百合マンガは、とてもベタな展開だった。
女子高に転校してきたギャル生徒が、真面目そうな生徒会長に惚れるという作品。
途中までは、てぇてぇだったが……とあるページで、私の指は止まってしまう。
それはある違和感があったからだ。
私は怒りのあまり、その場でアランを怒鳴りつける。
「アラン! これが本当に百合だと言えるのか!?」
「はい……しっかりとてぇてぇな展開だと思いますが。どこが悪かったのですか?」
悪びれることもなく、きょとんとした顔をするアラン王子を見て、私はため息をつく。
「アラン……同性愛の作品を描く際、一番注意すべきことは何だと思う?」
「そ、それはえっと……」
この間、体感にして0.3秒。
彼が回答に困っている姿を見て、私の怒りは頂点に達した。
「判断が遅いっ!」
玉座から立ち上がると、右手に拳を作る。
そして前足に重心をかけて、アランの顔面めがけてストレートパンチをお見舞い。
「ぐはっ!」
私の渾身のパンチを食らったアランは、膝を崩してしまう。
同時に、口と鼻から大量の血を吹き出す。
何本か前歯が折れたようで、カランと音を立てて床に散らばった。
「同性愛の作品に異性はいらないんだよっ! 読み手からすると殺意しかわかないのだっ! バカ者!」
「も、申し訳ございません。こんな原稿、直ちにお捨てします!」
しかし、私もそこまで鬼ではない。
その場で原稿を破ろうとしているアランを止めに入る。
「まあ待て、アランよ」
そう言うと優しく微笑む。
「女王様……」
「間違いは誰にでも起こることだ。そんな時は修正すれば良いのだ」
「修正って、もうペン入れしちゃったんですよ?」
「ふふ、まだ甘いな。アランよ……そんな時こそコレだ!」
私が手の平を宙にかざすと、背後に立っていたカデルから小さな瓶を渡される。
「はい! どこでも修正液~!」
こんなこともあろうと、極秘裏にカデルへ開発を頼んでいたのよ。
「しゅ、修正液ですと? それがあれば、今からでも変更できるのですか?」
「そうよ。これを使えば百合の世界に出て来た男を消すことが出来る。もしくは髪型や服装だけ変えて、女の子に性転換すればライバルとしてもOKよ」
「さすが女王様!」
そんな創作ライフを送っているのも束の間。
隣国、剣の国”インフィニティ”から宣戦布告を叩きつけられてしまう。