宮殿まで押しよせて来た暴徒たち……いや、女性陣だが。
見事、私の罠。一度落ちたら抜け出せない沼に落ちてしまった。
私へ向けられた怒りなんて、もうどこにも無いわ。
今あるのは、「早く続きが読みたいですぅ!」という純粋な気持ちだけ。
手にしていた武器も床に投げ捨て、玉座へ向けて膝をつき頭を下げる民草ども。
「私たちが間違っておりました! ユリ女王陛下! あなた様に皆、忠誠を誓います! 今までのご無礼をどうか……」
「分かって貰えれば、それで良い。本来なら、そなたたちにもっと早くこの薄い本を見せたかったが、うるさい男たちを黙らせるには、百合の布教が必要だった」
私がそう言うと、その場にいた女性陣は声をあげて泣き始める。
「そ、そんなぁ! 女王陛下はそこまでの考えがあって、先んじて百合で男たちを静めたのですねっ!」
「私たちは陛下のためなら、なんでもします! 夫も殺せます!」
「女王陛下、万歳!」
別に誰も殺せとは、言わないけどね……。
私の隣りに立っていたカデルも、眼鏡を外してハンカチで涙を拭く。
「陛下……なんという、優しさ。私では考えつきません」
「すべては、この国の未来を考えてのこと……」
なんてのは全部、ウソ。
ただ私が創作しやすいために、布教しただけよ。
※
民衆を率いて、宮殿内へ襲撃に来た聖女オリヴィアは、私の話を聞いて絶望していた。
「私は一体なにをやっていたのでしょう……陛下の考えを知らず、こんな野蛮な行為までして」
「オリヴィア様、それは私が止められなかったからです。本来はお優しい方なのに」
あとは、この二人か。
まあ今ならすぐに洗脳できるわ。
「聖女オリヴィア、そしてザリナよ。貴様たちは民衆をたぶらかした大罪人だっ! 覚悟はしているのだろうなっ!」
「も、もちろんです……この首、ご自由にしてください」
「そんな……私の命でどうにかしてくださいまし! 女王陛下!」
ヤッバい。ちょっと女王ぽく、プレッシャーかけたら二人とも勘違いしちゃった。
「何を言っているのだ? 私が欲しいのは、貴様らの命なのではない! オリヴィア、お前の力だ」
「え? 私の力?」
「そうだ……聖女と呼ばれるきっかけになった、あの魔法だ」
~10分後~
玉座の上には、大きな白い天井があるのだけど。
今は灯りを消して真っ暗になっている。
みんなで床に寝転がり、天井に映し出された映像を鑑賞している。
『ああっ! やめろ、私たちは兄弟じゃないかっ!』
『兄上……もう我慢できませぬ。今日こそは、私の想いを兄上にぶつけさせて頂きます』
『カデル! わ、私たちは……ぐあっ!』
オリヴィアの能力、”ヴィジョン”を使って私たちは上映会を楽しんでいる。
これが彼女を聖女と呼ぶきっかけになった魔法だ。
脳内に浮かんだ映像をそのまま、眼球から放出させるという力だ。
私の隣りに寝かせているのだけど、目からビームを放っているようで、ちょっとホラーだわ。