宮殿内に押し寄せてきた民衆。中には武器を手に持った姿もあるわ。
 しかし、その中には男性がいない。
 女性陣のみが暴動を起こし、宮殿までやってきたということだ。

「悪逆非道の女王、ユリ・デ・ビーエル! 私はあなたを許さない!」

 先頭に立ち、この民衆を率いているのは、かつて聖女と呼ばれた女性。
 このゲーム世界での主人公、オリヴィア・マイルス。
 初めて出会った時とは違い、怒りで我を忘れているように見える。

「フッ……オリヴィアか? 久しいな?」
「何が『久しいな?』ですかっ!? あなたは自分のやったことを分かっているのですか?」
「ふむ、なんのことかな?」
「これですよっ! こんな低俗な創作物で王族や民衆をたぶらかし、王位まで奪うとは! やはりあなたは処刑されるべきでした!」

 まあ、彼女が怒るのも無理はない。
 だって配った同人誌のモデルは、オリヴィアと使用人のザリナなのだから……。
 しかも18禁だから、かなり際どいシーンを追加してしまった。
 民草をたぶらかしてしまう、自分の才能が怖いわ。

「オリヴィア様……そこまで言われなくても、ただの創作ですし」

 とオリヴィアの腕を掴むのは、モデルになった使用人ザリナだ。
 もしかして、彼女には百合の耐性があるのかしら?

「ザリナ、何を言っているの? 私とあなたを使って……こんないやらしいものを勝手に描いたのよっ? それで今や玉座に座るなんて!」
「別に私も望んで、この王冠を手にしているわけではない」

 そう言って、黄金の王冠を人差し指でくるくると回して見せる。
 
「じゃあ、一体なぜこんなことをするのですかっ!? 今やこの国では、百合文化で男性陣が訳の分からないことばかり言うのですよ!?」
「それもそうね……」

 だから今は、宮殿内から私を守る兵士たちを追い払ったのだ。
 唯一この場に残った男性は、玉座の隣りに立つカデルのみ。
 なぜ彼だけ残したのか……それはこれから分かってもらえる。

「陛下、そろそろ頃合いかと」
「うむ。カデルよ、例のものを女性陣に配ってくれ」
「はっ! イエス・ユア・マジェスティ」

 毎回、言うのかしら? ちょっと痛い子に見えて来たわ。

 ~数分後~

 カデルはどこからか、眩しく輝く黄金のワゴンを持ってくる。
 ワゴンの上には、大量のカラー同人誌が載せてある。
 もちろん、百合ではない。
 表紙には汗だくになったアランが、弟のカデルと激しく絡み合っている。とても卑猥な作品だ。

「皆の物よ! これを読んで欲しい。そこに答えがあると思う!」

 私がそう言うと、先ほどまでの態度はどこへやら。
 腹を空かせた子供のように、同人誌目がけて突っ走る。
 目は血走り、我を忘れている。
 時折、同人誌を奪い合う女性たちの姿が見えるわ。

 思った以上の反応だわ。
 玉座の隣りに戻ったカデルが、耳元で囁く。

「陛下の予想された通りですね」
「うむ、ところでカデル。お前はあの作品を見ても大丈夫なの? ひょっとして耐性があるのかしら?」
「耐性というより、私は”腐男子”ですから」
「そうか……」

 良い感じに仕上がったわね。