「答えろ、ユリっ! 貴様がカデルをこんな状態にさせたのかっ!?」
ヤバい。アホのアラン王子がめっちゃキレてる。
持ち前の赤髪より、顔を真っ赤にして私を睨んでいるわ。
どうしましょ?
「えっと……アラン王子。カデル王子は自らそうなったんですよ」
「そんなはずはない! 自慢じゃないがこのマジーナ王国で、一番博識な男だ。父上や私のためなら命も捧げるというのに……」
それが今じゃ、百合好きの大型コピー機だものね。
参ったわ。ここまで兄弟愛が強いとは……。
アラン王子は、近くに並べてあった同人誌を手に取る。
今、白目で倒れている弟が、大量複製したものだけど。
表紙を睨みつけると、何を思ったのか、床に叩きつけた。
そして、革靴で踏みにじる。
これには、私も声を上げて驚く。
「な、なにをやって……」
「やかましい! このような低俗な書物などっ! こうしてくれるっ!」
ビリビリと破れる音が、部屋中に響き渡る。
いくら第一王子と言えども、人が一生懸命、時間をかけて作ったものを……許せない!
アランの頬を一発、平手打ちでもしてやろうと思ったけど。
私より先に動いたのは、この部屋でアシスタントをしてくれていた兵士たちだ。
たった5人の少数気鋭の部隊だが、王子より遥かに背は高く、筋骨隆々とした男たちだ。
無言で立ち上がると、アラン王子を囲み、腕を組んで上から睨みつける。
これにはアランも怯んでしまう。
「な、なんだ貴様らっ! この私に歯向かうのか? たかだが兵士の身分で!」
「……百合、踏ムナ。コノ世、最モ尊イ存在」
徹夜の作業で疲れているのかしら?
なんだか知らないけど、カタコトになっているわ。
「無礼者っ! 私に歯向かうということは、命は惜しくないのだな! そこへなおれ!」
そう言うと、アランは腰に差していた銀色の剣を抜いて、兵士たちに刃を向ける。
しかし、兵士たちは依然として無言を貫き、腕を組む。
まるでアランの剣など、自分たちには効かないとでも言いたげだ。
「そうか……丸腰でも私に勝てると言いたいのだな? ならば、お望み通り斬ってくれる!」
そう言ってアランは、剣を振り上げた。
さすがの私も流血騒ぎは怖いので、瞼を閉じる。
しかし、しばらく待っても悲鳴などは聞こえてこない。
恐る恐る、瞼をゆっくり開く。
するとそこには……。
「兄上っ! その前にこちらをご覧くださいっ!」
弟のカデルが騒ぎを聞いて、目を覚ましたのだ。
兵士とアランの仲裁に入ってくれたみたい。
アランは剣を振り上げたまま、固まっている。
「な、なんだこれは……私の婚約者、オリヴィアではないか? 隣りにいるのは、使用人のザリナ。なぜ二人がお風呂になど……」
気がつくと、アランの瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。
振り上げた剣は床に投げ捨て、弟が差し出す薄い本を手に取る。
「兄上。いいですか? 落ち着いて聞いてください。今、兄上に起きている現象は、キマシタワーであり、てぇてぇなのです」
「こ、これが……てぇてぇ? キマシタのは私?」
次の瞬間、百合を分かち合った兄弟は、泣きながら抱きしめあう。
うんうん。兄弟は仲良くしないとね、ついでだからハグしてる二人もデッサンしておこっと。