生徒会選挙の時季になった。俺は、生徒会長に立候補することにした。今までの生徒会役員ももうすぐ解散だ。現生徒会長の秋元さんは、
「矢木沢、俺はお前に後を継いでもらいたいと思う。どうだ?」
と、会議の時に言った。俺はついつい、今までとは違う目で秋元さんを見てしまう。何となく、怖い。
「はい。やります。」
と言うと、
「この後、選挙戦のコツを教えるから、残ってくれ。」
と言われた。怖い。今までだったら全く何とも思わなかったはずなのに。
 秋元さんが近づいてきて、俺がつい身を引いてしまったら、秋元さんはおや?という感じに俺の顔を見た。俺はつい目を泳がせる。
「あれ、どうしたのかな?俺の事警戒してる?」
と、秋元さんは下から俺の目を覗き込んできた。この人も人気投票で選ばれてる会長だけあって、顔は良いと言わざるを得ない。俺より年上だけど、かわいい系の顔だと思う。
「してませんよ、別に。」
俺は笑顔を作って向き直った。俺、自分で思っていたより顔に出るらしい。っていうか、今まで経験してきた感情ならコントロールもできるが、この思いもかけない状況にはまだ耐性ができていない。
「ふーん。森村君から何か聞いたのかな?今更だけどなー。」
この人、けっこう悪だな。知らなかった。
「え?彰二?何も聞いてませんよ。何の話ですか?」
俺はせめて彰二を守るため、ここはしっかり演技をしようと決めた。秋元さんはじっと俺の目を見たが、
「そっか。何でもないよ。」
と言って笑った。そして、会長選挙についての話に移った。

 俺は、無事に生徒会長に当選した。というか、他に立候補者がいなかったので、信任投票で決まった。先輩たちもいなくなって、これからは好きなように運営できると思うと楽しい。今回、会長以外の役員はいつもよりも立候補者が多く、選挙戦は熱戦となった。今まで一緒にやってきた役員が四名、俺に応援演説を頼んできたので、やはり仕事を知ってる人材もいないと困ると思い、全ての応援演説を引き受けた。その結果、二年生はその四名が当選した。やれやれ。
 当選が発表された翌日の朝、薫は俺におはようと言った後、
「生徒会長、当選おめでとう。」
と言ってにこっと笑ってくれた。なんて幸せな気分だろう。
「ありがと。」
と、自分でもわかるくらい思わずはにかんでしまった。よし。これでお得感を前面に押し出し、告白しよう、かな。いや、まだ無理かな、いや、うーん。