「はぁぁ。」
つい、ため息が出る。俺は、体育館へゾロゾロと向かう1-7の連中を、さっきからずっと眺めている。ここは二階の渡り廊下で、第二校舎と第一校舎をつなぐ外の廊下だ。1-7が火曜の五時間目は体育だという情報を仕入れた俺は、昼休みの後半からずっとここから下を眺めている。チャイムが鳴るまであと5分だというのに、薫の姿は未だ現れない。それとも、もっと早くに行ってしまったのだろうか。
と、暗い気持ちになり始めた時、俺の心は跳ね上がった。
いたぜ~、薫。あんまり背高くないんだな。隣の奴がでかいのか。
「まったく、なんであいつなわけ?」
「へ?」
突然隣から声がして、俺は首の骨が鳴りそうなほど力強く振り向いてしまった。
「彰二、どうしてここに?」
「そりゃお前、いきなりフラっと出て行って帰って来ないんじゃあ、一応気になるだろうが。それよりさ、お前ほど女にモテる奴が、なんで男なんかに、いや、男にだってかなりモテるお前が、どうしてああいう普通な子なの?」
「な!?」
なんでバレてんだ?彰二は俺が何も言う前に、そう、ごまかしたりする前に勝手に知ってる理由を話し始めた。
「俺たち何年つき合ってんだよ。お前が誰の名前を調べようとしてたかなんて、すーぐ分かるんだよ。」
「そ、それは……」
「一年七組、窓際の前から三番目。」
ぐっ。そこまで言われちゃ、ごまかせん。
「名前は」
ぬっ、こいつも調べたのか?
「山田一郎。」
「は?」
ま、まさか。滝川薫じゃないのか?あの座席表、古かったのか?
突然彰二が大笑いし始めた。
「あはははは。珍しく動揺してんじゃんか、はははは。」
「な、なんだ?」
「わりーわりー。本当は滝川薫だ。いつものポーカーフェイスもどこへやら、今真っ青になってたぜ。」
「お前なあ。」
「まあ、怒るなって。お前もけっこう普通だなって初めて思えて安心したぜ。俺はね、いっつもお前の世話になってばかりだから、ここらでお前の役に立ちたいわけ。だからさ、協力するぜ。」
彰二はニッと笑った。まあ、こいつが他の奴にバラすとは思っていないが、一つ弱みを握られてしまった。油断のならぬ奴だ。