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「もうすぐ十七時だね。もう誰も残ってないし、閉めよっか」

 そろそろだなと思って時計を見ながら言うと、綾瀬も立ち上がって、一緒に片付けを始める。椅子や机を綺麗に並べて、貸し出し用のパソコンを閉じて、窓の施錠を確認。鞄を持って電気を消したところで、図書室の鍵を綾瀬が手に取った。

「九条は、これから美術室行くんでしょ?」
「うん」
「オレは、今日は部活が無いから帰るんだけどね。てか、美術部って、結局毎日が活動日な感じ?」
「一応、月曜水曜なんだけど。毎日行ってもいいし、月水も出なくてもいいし。緩いんだよ」
「ふーん、そっか」

 にこ、と笑ってから、綾瀬が図書室に鍵をかけた。

「オレ、鍵返しとくからそのまま美術部、行っていいよ」
「一緒に行くけど?」
「だってオレ帰るだけだし。行っていいよ」
「ん、分かった。ありがとう」
「うん」

 鍵を指に引っ掛けて、くるくる回しながら、「あのさ」と綾瀬がオレを見つめた。

「オレ、今度の金曜、サッカー部、休みなんだ」
「うん」
「九条さ、美術部行かなくてもいい?」
「……ん?」

 どういう意味か分からず、綾瀬に視線を向けると、綾瀬はオレをまっすぐ見つめた。

「一緒にご飯、行かない?」
「え? オレと綾瀬で? 二人で?」

 思わず聞くと、綾瀬は、あ、嫌ならいいんだけど、と、少し慌てだした。嫌なわけがないので「嫌じゃないよ」とすぐ言ってから。

「あ、じゃあさ、木曜までに今週中に進めたいとこまでいってたら、てことでもいい?」
「あ、うん。じゃあ、金曜に教えて」
「分かった」
「じゃあ、鍵返してから、オレ帰るね」
「ありがと、綾瀬」
「うん、じゃーな!」

 綾瀬はそう言うと、すごい勢いで走り去っていった。
 ……二人でご飯って、急にどうしたんだろ。
 去年は一年間、綾瀬とは話さなかった。もちろん、嫌いだったとかじゃない。
 むしろ、小学五年生の時に会ってから、どれだけ、また会いたいと思っていたか。でも。


 ――綾瀬とご飯か。思わずため息をついて、美術室に向かって、歩き出した。