赤団の仮装、新郎新婦らしいよー!
絶対、綾瀬先輩が新婦だよね! きゃー! 絶対綾瀬くん綺麗! 楽しみすぎるー!
赤団の主に女子が、どこからか飛び込んできた話に、ざわついている。
「綾瀬、新婦だって。良いの?」
「……良いのって……」
優真の質問に苦笑い。
まあ確かに、あんまり似合いすぎて可愛すぎてもちょっと……他の奴に見せたくないけど。
「男にファンとかできたら困るだろ?」
「まあ……そうだね」
「あれ。もう、認めてる?」
クスクス笑う優真に、「否定したって無駄な気がするから」と言うと、また笑われる。
「あ、優真。後夜祭って、なんかジンクスある? 知ってる?」
「ん? あー。知ってる」
「どんなの?」
「後夜祭で告白して付き合ったらずっといられるとかいう……よくある感じのやつだよ」
「――――……」
聞き終えた瞬間、え、と固まった。
昨日、慌てて、やっぱり良い、と言ってた綾瀬が浮かんで。ふわ、と心の中があったかい気持ちで満ちる気がした。
その時、音楽が鳴り始めて、アナウンス。各団の団長と副団長たちが黒いマントに覆われたままゆっくり歩いてきて、皆の前に並ぶ。それから、一斉にマントを脱いだ。各団いろいろな仮装に、笑いや歓声が巻き起こった。そこから団ごとに距離を置いて、トラックを歩き出した。現時点の順位に並んでいるので、最初に赤団の仮装に対してのアナウンスが流れ始めた。
「赤団はなんと、新郎新婦です! もちろん新婦は……あれ? ……新婦は、綾瀬さんじゃありませーん! 佐原さんです!」
その言葉に、会場から一斉に悲鳴があがる。
「ただいま、追加情報が入ってきました! えー……。なんと! 団長が新婦だと、美人になりすぎて逆に引かれそうということで、急遽副団長が新婦になったそうです!」
アナウンスに、なんだそれー! ふざけんなー! とヤジが飛ぶ。そのヤジを一身に受けながら、花嫁衣裳の佐原が大笑い。
白のタキシード、新郎の衣装に身を包んだ綾瀬が、大介の腕を引いた。何を言ってるかまでは、会場には聞こえないが、その後、大介が綾瀬の腕に腕を絡めたことで、悲鳴が何倍にも膨れ上がった。アナウンスで、「すごい盛り上がりです!」と流れると、会場がどっと沸いた。
「これって、盛り上がってんのかー?」
「半分以上、女子の悲鳴じゃん」
「こん中で笑ってられるとか、大介、マジでメンタル強いなー」
女子の叫びの中、男子はそんな感じ。盛り上がってるのは間違いではない。綾瀬と佐原が周囲に手を振りながらトラックを進んできて、赤団の応援席の前を通りかかると、わっと歓声が起こる。……笑いと、悲鳴も。
「お前ら、少しは綺麗とかほめろー!」
佐原の声に、どっと笑いが起こる。
「綾瀬先輩はカッコいいです!」
「ありがとー」
綾瀬が言いながら手を振ると、女子たちが歓声をあげる。各団、それぞれ大盛り上がりの中、四団の団長・副団長が、中央に並んだ。
「仮装大会の勝利は、例年通り歓声の大きさで決めます。赤団、ダントツの勝利です!」
というアナウンス。
オレの隣で優真が「歓声っていうか、悲鳴じゃなかったか?」と笑う。
「歓声もあったんじゃない? 綾瀬に」
「悲鳴のがデカかったけど」
クッと笑う優真に頷きながら、中央で大喜びの綾瀬と佐原を見ていると。
「しゅーん! 愛してるぜー!」
「ははっ……オレも」
綾瀬が、笑顔で返そうとした瞬間。
「……っ!」
突然。佐原が綾瀬の頬にキスをした。場内にまたしても、悲鳴と歓声が巻き起こる。
「……っつか、何してんだよ!」
ぼか、と綾瀬が佐原に蹴りを入れて、引き離す。
「新郎、新婦に蹴りを入れないで下さい」
アナウンスはもはや悪乗り。
「あららー」
優真が苦笑しながらオレを斜めに見てくる。
「何」
「いや。……だいじょーぶ?」
クスクス笑われて、ため息。
「別に。……ふざけてるだけだし」
「まあそうだけどさ」
優真は、ははっとおかしそうに笑う。
「何?」
「いや。お前でも、嫉妬したりするんだなーって、感心してたとこ」
「……そんなこと言ってないだろ」
「まあ言ってはないんだけど」
クッと笑いながら、優真が、オレに肩をぽんぽんとたたく。
はー、とため息をつきながら、皆の前で騒いでる綾瀬と佐原を目に映す。
「キスコール、あったから。ま、いーじゃん。盛り上がったし」
「もー、大介!」
佐原がキスした頬を、綾瀬が手の甲で、ごしごし拭いてる。
「つーか何それ、傷つくからやめて!」
「もう、マジでふざけんな!」
コントみたいなやり取りの中、悪乗りしていたアナウンスがようやく閉会式の準備をするように言い始めた。すぐに切り替えて、綾瀬がタキシードを脱ぎ始める。準備してた後輩たちが持って行った体操着を受け取って、綾瀬と佐原は、もう一度団長と副団長の赤いハッピを身に着け、ハチマキを縛り直した。
閉会式。
リレーと仮装両方で勝利した、赤団のダントツ優勝で。
綾瀬が、トロフィーを受け取って、歓声を浴びていた。