委員活動が始まって、もう何回か綾瀬と図書室の当番をこなした。今日もこれから当番なので、帰る支度を急いでいた時。
「九条!」
オレのクラスの出入り口に綾瀬がいて、オレを呼んだ。ルックスが良すぎるというのか、オーラがあるというのか、とにかくすごく目立つ綾瀬。クラスの皆の視線が、なんとなく綾瀬の方に向いた。
「ごめん、今先生に手伝いで呼ばれちゃってさ。図書室に行くの、少し遅れる!」
「分かった」
頷くと、綾瀬はにっこり笑ってバイバイと手を振った。その直後、教室に入ってこようとしていた女子とぶつかりそうになって、その子を咄嗟に支えた。
「ごめんね、大丈夫?」
「あ、うん」
至近距離の綾瀬に焦って、ただ、こくこくと頷いてる女子に向けて、にっこり笑い、「ほんとごめんね」と言い置いて、今度こそ姿を消した。
別に、綾瀬がものすごく騒がしかったわけでもないのに、なんとなく綾瀬に気を取られて静かになっていたクラスが、綾瀬がいなくなってすぐにざわついた。
「綾瀬くんって、ほんとアイドルみたい」
「ほんと! なんだろうね、あの爽やかでカッコいい感じ」
「一般人にしとくの、もったいない……」
主に女子が騒いでいて、男子は周りで苦笑いを浮かべている感じ。
「いいな、超近くで綾瀬くん、見られて」
さっき綾瀬にぶつかった女子が、別の女子にそう言われている。
「良くないよう、もう心臓に良くないよ、カッコ良すぎて、ヤバいよ」
「いいなぁ~」
「でも、いいよね、二組の子たちってば、いつも綾瀬くんと一緒で」
漏れ聞こえてくるのは、そんな言葉。まあ、言ってることは分かるような気はするけど、なんだかおかしい。綾瀬は、自分が今こんな風に騒がれてることなんか知らないしな……。そう思っていると。
「ていうか、九条くん、仲良かったの?」
不意に矛先がこっちに向いて来た。
「図書委員が一緒なだけだよ」
静かにそう言うと。
「なんだそっか……って、綾瀬くん、図書委員なの?」
「意外!」
「趣味が読書なのかな? やーん、カッコいい!」
盛り上がっている女子たちからそっと離れて、職員室へ向かう。先生に図書室の鍵を借りて図書室に向かう途中、女子たちの会話がよみがえってきた。
綾瀬が図書委員なのが、意外、かあ……。
一人で歩きながら、ふ、と笑ってしまっていることに気付いて、唇を引き締めた。くじ引きでさせられたって言ってた図書委員。クラスでも笑われたらしいし、さっきのを見ても、皆が口をそろえて、意外だと言うみたいだ。
正直、最初はオレも、そう思った。
でも、今一緒に図書室にいる時は、すごく楽しそうに本を読んでいて、当番もマジメにこなしている。確かにこれまでは全然本を読んでこなかったみたいだけど、今はオレが薦めるままに、好き嫌いもなく、次々と読み終えていく。読書も図書委員も、向いてるんじゃないかと、今は思っている。
図書室に着いて鍵を開け、パソコンの電源を入れる。返却の棚に置いてある本をカウンターに運んで、パソコンで返却の処理を終えた。それを本棚に返しながら、いろいろな本を目に映す。
綾瀬が今読んでるのが終わったら、次は何を薦めてみようかな。そんなことを思いながら本棚を眺めていると、図書室のドアが開いて、綾瀬が入ってきた。
「九条、ごめん、手伝い、長引いて」
走ってきたらしい綾瀬が、はあ、と息をついてる。