「あ、九条」

 教室から出てきた綾瀬がオレを見て立ち止まった。ふ、と笑ってしまう。

「もしかしてその勢いで美術室まで走ってきてくれようとしてた?」
「うん、そだけど……。待っててくれたの?」
「ん、一緒に飲み物を買ってから行こうと思って待ってた。行こ?」
「うん。そか、ごめん、結構待ったよな?」

 話しながら並んで歩き始める。

「二組の学活面白かった」
「ん? 面白かった?」

 不思議そうにオレを見上げる綾瀬を見て、頷く。

「応援団長の決め方。楽しそうだった」
「そう? そっちはどうやって決まったの?」
「んー……まあ、すごく長い、立候補待ち」
「あ、でも立候補で決まったんだ?」
「んー、なかば強制的な、立候補?」
「そうなんだ。誰になった?」 
佐藤(さとう)相川(あいかわ)
「でも、三組の中だと、妥当なんじゃない?」

 クスクス笑う綾瀬を見て頷いてから、なんだか顔が綻んでしまう。

「綾瀬ってほんとカッコイイよね」
「……え、なに、突然」

 少し照れた感じでオレを見上げてくる。

「あんな役目、簡単に引き受けてさ。もう一人の決め方も、綾瀬だからできる感じ」
「……褒めてくれてんの?」
「ん。めちゃくちゃ、褒めてるよ」

 そう言うと、綾瀬は、さらに照れたように、でもすごく嬉しそうに笑った。

「まあ、お祭り騒ぎ、大好きなだけだけど」

 あはは、と笑いながら。そんなことを言ってる。
 ……違うなあ。お祭り騒ぎが好きなのと、さっきのは別話。
 普通はそんな簡単に引き受けられないと思うし、ほんとにカッコイイと思ってしまう。
 キラキラしてて、明るくて、まっすぐで。まわりを、どんどん、明るい方に連れていける。
 皆が、綾瀬を好きで。綾瀬も、分け隔てなく、皆を好きで。

「同じ団になるといいね?」

 キラキラした笑顔で言って、オレを見つめてくる。

「四分の一だから……どうだろうね」

 体育祭は、「赤団(あかだん)」「緑団(りょくだん)」「青団(あおだん)」「黄団(きだん)」の四団での競争。全クラスを、四色に分けて、クラスや学年対抗ではなくて、色対抗。色で団結することで、クラスや学年の関係ない、広いつながりを持とう、という趣旨のシステムらしい。

「明日の学活で色分けするって言ってた。一緒だといいなあ」
「そうだね、一緒になったら綾瀬についてくよ」
「応援団長になるか、副になるかはまだ決まってないけど」
「なんでもついてくよ」
「一緒になったらね。祈っとこ、一緒になれるように」
「そうだね」

 と、そんな会話をしたのが昨日の放課後。
 綾瀬の言う通り、今朝の学活でくじ引きがあって、オレは赤団になった。綾瀬はどこになったのかなあ、なんて思っていたら、朝の学活が終わって一時間目が始まる迄のほんの僅かな間に、綾瀬が教室を覗きに来た。

「九条、何団?」
「赤団」

 そういうと、パッと嬉しそうに笑って、「一緒! またあとで」と消えて行った。そんなやり取りを見ていた後ろの席の優真が、クッと笑い出した。

「何?」
「あいつ、春のそれだけ確認しにくるとか……ほんと、好かれてンな?」

 こそっと囁かれて、振り返ってまじまじと優真を見つめる。

「……そう思う?」
「思うだろ」

 優真がふ、と笑う。

「何、好かれてる気、しないの?」
「んー……まあいろいろ。考え中」
「そか。まあ、やっぱいろいろ強烈だよな?」

 クスクス笑う優真に苦笑い。
 その翌日の放課後。一緒に図書室に向かいながら、綾瀬はウキウキ話し出した。

「オレ、今日の昼休みの集まりでさ、赤団の団長になった」
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ、綾瀬についてく」
「うん、ついてきてー?」

 クスクス笑う、綾瀬。

「九条と一緒か~楽しみ」

 本当に楽しそうな笑顔で、綾瀬はオレを見つめてくる。