孝紀から電話があってから憂鬱すぎて、これじゃダメだと思うのに全然復活できず。
 なんだかよく眠れなくて、今日はすごく、眠かった。だから、昼を食べずに、眠って過ごしてしまった。多分それがいけなかったんだと思う。
 部活の途中でくらくらしてきて、少し休むと言って座ったら、ぐら、と眩暈がして。
 何とか、ゆっくり、横になることはできた気がした。
 一瞬意識が遠くなったけど、体に触れられて支えられてる感じがして、目を開けると九条がいた。
 そのままおんぶされて、保健室に来て、ベッドの上にゆっくり寝かされた。理央と九条と、保健室の先生がオレの寝てるベッドの周りに立ってる。

「寝不足かな? ご飯ちゃんと食べた?」

 その声に理央がすぐ「今日、眠いって言って昼ずっと寝てて、食べてないんですよ」と答える。

「それだね。そんなんで部活やっちゃダメよ。購買のとこの自販機で、甘い飲み物と菓子パンでも買ってきてあげてくれる? ちょっと待ってね、お金……」

 先生が取りに行こうとした時、九条が「あ、オレ財布持ってるから行ってきます」と言った。

「ごめん、九条、あとで返すから」
「いいよ。食べたいの希望ある?」
「ううん。なんでもいい……」
「分かった」

 九条がそう言って、保健室を出て行った。

「食べれば落ち着くでしょ。今夜は早く寝てね?」
「……すみません」

 理央が安心したように息をついて笑った。

「じゃあオレ、部活戻る。終わったら荷物持ってきてやるから、それまで寝てろよ」
「ん。ありがと」

 理央が部活に戻って少しして、九条が帰ってきた。

「綾瀬、手、洗いにいける?」
「うん。大丈夫」

 なんだか支えられながら水道で手を洗っていると、先生が九条に話しかけた。

「九条くんは、ここにいられる? 小泉くん、部活が終わったら荷物持って迎えに来るって言ってたんだけど」
「あ、はい」
「先生、今から職員会議があるから行ってきていい? 三十分くらいで戻ってくるから」
「大丈夫です。見てます」
「ありがとう。多分もうこの時間から保健室来る子はそんなにいないと思うけど……もし怪我したとかで誰か来たら、職員室に呼びにきてもらっていいかな?」
「はい」
「よろしくね」

 そう言って、先生は、出て行った。オレはベッドに戻って、九条が買ってきてくれたパンを口に入れる。

「お金明日払うね」
「いいよ。お見舞いであげる」
「お見舞い……ありがと。ごめんね」
「それよりさ……何で寝不足?」
「……んー。……ゲーム、してて」
「嘘だろ」

 バレるだろうなとは思って言ったけど、速攻、ツッコまれた。

「……まあ……うん。考え事してたら自然と寝るの遅くなっちゃって」
「そっか……まあとりあえず、食べて? もうほんと。びっくりしたんだからな、倒れた時」
「あ、ごめん。……見てたの?」
「たまたま綾瀬が見えて、一人で花壇に座るとこ、見てたんだ。近いから、声かけようと思って窓開けたら」
「オレ、倒れた?」
「ほんと驚いた」
「ごめんね」

 苦笑いしか浮かばない。

「ばったり倒れて頭とか打たなくって良かったよ」
「うん……そだよね」

 頷きながら、とりあえず、栄養補給だけ済ませた。

「ごちそうさま」
「ん」

 受け取ってくれたごみを捨ててから、九条がベッドの横の椅子に腰かけた。

「なあ、綾瀬。何考えてるか、話せない?」
「…………」
「明日の試合だろ? というか……孝紀って奴の電話からだろ? たかが試合で会うのになんで綾瀬、そんなおかしくなってる?」
「…………」

 ……なんだかな。九条には隠し事、出来ない、というか。
 まあ……電話の時、オレ、おかしかっただろうから仕方ないか。

「オレ、話ならいくらでも聞くから。……心配だから、話してほしい」

 まっすぐな視線に、唇を噛む。
 正直なところ、九条には聞いてほしいような。逆に、九条だけには聞かせたくない、ような、複雑なところ。
 でもやっぱり、こんなに真剣に心配してくれる九条には話してしまいたいという気持ちが少しだけ勝る。
 だけど、これを話して嫌われたら? という気持ちも浮かぶ。
 九条はそんなことない、と思いながらも、今まで誰にも言わずに過ごしてきたことだから、言うのにはかなり勇気が要った。