サッカー部の練習が見える。暑い中、ほんと元気だなあと思う。

 委員活動、最後の日。お疲れとか解放とか言った時の綾瀬が、なんだか少し……オレを突き放すみたいな感じだったから。
 ……正直、オレは、「お疲れ」ではなかった。
 楽しかったから、全然疲れてなんかなくて、そのままずっと続けたい気分だった。

 お疲れと言われた瞬間、綾瀬は疲れていて、清々したと思ってるのかなと、思ってしまった。ずっとニコニコ楽しそうだったし、そんなはずない、とも思いながらも、なんだかすごく、胸が痛いような気持ちになった。
 終業式の日も、まるで避けるみたいに、小泉と行ってしまって、正直あんな態度を取られて、オレから綾瀬に連絡ができるわけもない。夏休みはひたすら、絵を描くことと、綾瀬に言われてからやり始めていた筋トレに励んだ。

 綾瀬の言う通りにしたら、イケメンとか言われるようになったけど、基本オレはやっぱり変わってない。
 絵と読書が好きで、騒がしいよりは穏やかな方が好きだし、運動にも苦手意識がある。
 本当なら、綾瀬のようなタイプと、一緒に過ごしたいとは、思わない。
 ……綾瀬のことは、特別に思っているけど。

 綾瀬にとったらオレは、高校で一年話さず、たまたま図書委員で一緒になった同級生。
 まあちょっと、本を薦めてくれたり、勉強を教えてくれたりしたっていう……。
 そんなとこなんだよな、きっと。たくさん、仲のいい奴がいて、その中の、一人。
 まあ分かっていたんだけど。綾瀬があんまり楽しそうにオレといてくれたから、勘違いしてたのかも。
 思えば、綾瀬は誰といても楽しそうにしていられる奴だし。
 考えれば考えるほど、綾瀬と過ごしてた時間が遠く感じられて。オレは、綾瀬には、連絡は出来なかった。

 ◇ ◇ 
 
 夏休みが明けた初日。
 朝、少し早く登校したら、オレの絵を見上げてる綾瀬と廊下で会ってしまった。

「綾瀬……」
「あ」
「おはよ」
「ん……おはよ。久しぶり、だね」
「ん。……焼けたね?」
「サッカーばっかりだったから。あとプールも行ってたし」
「そっか」
「……元気だった?」
「うん。元気だったよ」

 そっか、と視線を逸らす綾瀬。

「……絵の前で、何、してたの?」
「ううん、別に……白石、綺麗に描かれてるなぁ、と思って……」

 そのセリフに、なんだか少し、胸が痛い。もしかして、とずっと思っていたことが、また頭に浮かんできた。

「あのさ、綾瀬はもしかして、白石のこと……」
「……え?」

 不思議そうに見られて、口を閉じた。

「……何でもない」

 その時だった。

「あ。春海くんと綾瀬くん、久しぶりー」

 白石だった。なんだかすごく、タイミング、悪い、と思ってしまう。

「どうして二人で絵の前にいるの?」
「久しぶりに見たら、綺麗だなって思って……」
「わあ、ありがとう。嬉しいな」

 絵を見ながら言った綾瀬の言葉に、白石が嬉しそうにしてる。
 描いたのは自分だし、誉め言葉だとも思うけど……。
 何だか、モヤモヤする気持ちが抑えられなくて、どうしようかと思った時。
 綾瀬が、じゃあオレ教室行くから、と立ち去ってしまった。
 少し、間を置いてから、絵を見上げていた白石がクスクス笑った。

「こんなところに私の絵が飾られるとかさ、入学した時は思いもしなかったよ」

 白石が、オレを見ながら、にっこり笑う。

「ありがとうって、ほんと思ってるよ、春海くん」
「……こっちこそ、感謝してるよ。描かせてくれて」

 白石は、再びにっこりして頷くと、じゃあね、と立ち去って行った。
 じっと絵を見つめてから、ふー、とため息をついた。
 なんか、絶対、綾瀬がオレのこと、避けてる。
 ……オレに興味がないとか、もう用が無いから、とか、そんなんじゃないって、さっきの顔を見たら、そう思った。
 当番が終わって清々して、オレとももう関わらなくていいから、無視しようとしてる。そんな可能性も少し考えていたんだけれど、今話したら、違うと思えた。
 何だろう。怒ってるんでもない。嫌われてる、とかでもなさそう。だけど避けられてるのは、確定事項。どうしたらいいんだろうと考えを巡らせる。話すのが一番いいんだけど、綾瀬は、オレの前から一刻も早く立ち去ろうとしてるようにしか、思えない。

 ……ほんと。どうしたら、いいんだろう。