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 中間がやっと終わって、テストの返却期間。オレは全教科で過去一番の点数を取った。テストが返ってくるたびに、九条のところに報告に行ってた。

 返却期間が終わってしばらく経つと、雨の多い時期に突入した。
 サッカー部は外で出来なくて休みになったり、校舎内での筋トレで終わらせたりする日々が続く。

 九条がコンタクトをつけてきた時は、また皆が改めて騒いでいたけれど、イケメン認定されてからずいぶん経ってくると、皆も慣れてきて沸き立った雰囲気はもうない。
 ただ、九条の周りによく女子がいるようになった気がする。前はほとんど見なかった光景。やっぱり女子って、分かりやすいイケメンが好きなんだな、としみじみ思う。
 だって、もともと九条、カッコ悪くはなかったのに。
 今、九条の周りにいる女子の中で、ダントツ九条に近いのは白石な気がする。
 皆も、九条が白石の絵を描いたことは知ってるし、白石が綺麗だから、他の女子は少し遠慮してる気がする。
 でもって九条がモテそうで焦ってたのはあの時言ってたけど……それのせいなのか、よく九条に話しかけに行くようになった気がする。

 前なら廊下で九条を見かけると、オレ、すぐ近寄ってたんだけど、さすがに女子と話してるのを……しかも、白石が九条を好きなことをオレは知ってしまっているので、それを邪魔しに行くことは出来なくて、前よりも、九条のところに行きづらくなってしまったけど、まあ、しょうがない……気もする。
 部活と図書室の当番でバタバタしながら日々が過ぎていく。高校生って地味に忙しい。
 廊下で話しかけに行く回数は減ったけど、図書の当番は一緒だし、九条に本を選んでもらって読書も続けていたけど、なんとまた明日から期末テストのための、部活と委員活動も禁止期間に入るので、また中断。
 こないだテスト返ってきた気がするのに、またテスト。
 しかも九教科。憂鬱すぎる。そう思いながら、オレは九条に呼びかけた。

「九条?」
「ん?」

 図書室の返却本を片付けながら、九条が振り返る。

「明日からまた委員会も部活も禁止だね」
「うん。だね早いよね、期末がくるの」
「うん……テストが終わって、その禁止期間が明けたらさ、残り二週間くらいで、当番、終わりだね?」
「そうだなぁ。なんだか、四月半ばからだったけど、あっという間だったね」
「うん。ほんと……」

 図書室当番なんてそんなに楽しそうとは思ってなかったけど、九条と話すようになってすごく楽しかったから、ほんとにあっという間だった。
 一学期だけといわず、九条となら、一年やっててもいいなぁ……。

「……綾瀬?」
「え?」
「ぼーっとしてるけど。どした?」
「いや、別に」

 ほんと、何気に忙しいんだよね。オレも九条も。
 部活がまず忙しくて土日もあるし。九条もまたコンテストあるって言ってたし。
 もちろん普通に勉強だってあるし。
 図書委員が終わったら、九条と関わる「用事」は無くなっちゃうよなあ……と、ぼんやり考えていたら「なあ、綾瀬」と呼ばれた。

「ん?」
「あのさ。期末のテスト勉強って、どうする? また一緒に、する?」

 しばらくその言葉を考えてから。オレは、パッと九条を見上げた。

「えっ。良いの?」
「オレは一緒にしたいけど」
「する!」

 嬉しくなって笑って答えると、九条はクスッと笑って、オレを見つめた。

「……? 何?」
「いや。……なんか最近、綾瀬、オレのこと避けてんのかなーと少し思ってたから。断られるかと思ってた」
「え? 何それ?」
「ほら、前はさ、九条九条って、しょっちゅう廊下でも来てたろ? 最近来ないし」
「……そんなこと、無いよ」
「そう?」
「うん。……ただ、九条の周りに女子がいると、行きにくい、かも」
「何で?」
「んー。邪魔、かなーって」
「何だそれ? そんなこと絶対無いよ?」

 いや。違う。
 九条がオレを邪魔っていうよりは、女の子にとって、オレが邪魔な時もあるよなっていうのなんだけど……。

「そっか」

 それは言わずに、頷くと、九条は「そうだよ、考えすぎ」と笑った。

「じゃあ……とりあえず、勉強。またよろしくお願いします」

 九条を見上げながらそう言うと、九条はクスクス笑いながら、こちらこそ、と言った。