二人で勉強するのが楽しいから二人がいいとか、なんかすごい我が儘を言ってしまった。嫌がられるかなと思ったけど、九条が楽しそうに笑ってくれて、明日からまた二人で頑張ろうねと言ってくれたから、ほっとした。
結局昨日は二十時まで、九条と勉強をして、帰って食事やシャワーを済ませてからは、九条からの宿題をひたすらこなした。いろいろ音読することと、範囲の新出の英単語をなるべく覚えること。
なんかオレ。今回めっちゃマジメに、勉強してるかも!
そう思いながら、頑張っていたけど。いつの間にか眠ってしまって、朝日の中、煌々とつけっぱなしだった電気で目覚めた。あのまま寝ちゃったのかと、なんとか起きて、学校にたどりついたところ。うう。なんか朝から眠い……。椅子に座って、軽く机に突っ伏していると。
「おはよ、綾瀬」
ぱっと顔を上げると、九条が立っていて、寝ぼけてるオレを見て、優しく笑ってる。
「おはよ、九条……」
「なんか突っ伏してるのが見えたから」
「うん、眠い……」
「昨日の夜、頑張った?」
「ん……」
頷いていると、そこに理央がやってきた。
「おはよ。九条、昨日はありがとな?」
「大したことしてないよ……あ、でも勉強会は昨日限りでいい?」
あ。さらっと断ってくれてる。そう思ったら。
「――ん。もちろん。昨日はありがとな」
呆気ないほど容易く受け入れながら、理央は、オレの後ろの席に腰かけた。その瞬間、予鈴が鳴って、九条は「じゃあね」と言って、クラスに戻って行った。
「なあなあ、俊?」
「……何?」
「今までは冗談で言ってたんだけどさ」
「うん?」
「九条のこと、好きになった?」
声のトーンを落として、オレにだけ聞こえるようにそんな風に言って、理央がクスクス笑った。
「……何でそう思うの?」
「いやー、なんとなくさ」
理央はふ、と笑いながら、オレを見つめた。オレは、なんと答えていいか分からなくて、少し止まる。
「ま、オレは味方だから。覚えといて?」
「……よく分かんないけど、分かった。ていうか理央こそ、彼女とうまくいってる?」
「オレは至って順調」
笑顔に、そっか、と頷くと、理央はクスクス笑う。先生がすぐにやって来て、朝のホームルームが始まる。その中で、ぼんやりと考える。
好きになったって何言ってんだろ、理央。九条は優しくて居心地が良い。
だからもちろん好きだけど。……変な意味の、好きはない。絶対無い。うん。そんなわけない。オレは友達として、九条が好き。
ていうか、オレ。
そういう好き……いまだによく分かんないし。
九条のこと好きなのが、どんな意味とか考えても、分からなくなるだけ。
たまに少しモヤつきながらも、二人で勉強を続けて、試験最終日前日までひたすら頑張った。
そして、翌週の木曜日、テストが終わった瞬間。オレは叫んでいた。
「終わったー!」
もう今回、超頑張った。手応えありすぎ。だって、いつもは分かんなくて空欄にすることも多いけど、今回はそういうのがほとんどなかった。ほとんどが分かって答えが書けたってすごい。九条、すごい。教え方がうますぎ。
ホームルームが終わるのを待って、オレは、皆に、じゃーな! と言って、隣のクラスへ。隣のクラスの担任がいなくなると同時にドアを開けて、九条の元に駆け寄った。
「あ、綾瀬。どーだった?」
オレを見つけてすぐ笑顔。
「最後の英語も結構分かった」
「そっか、じゃあテストが返ってくるの、楽しみにしてようね」
「マジでありがと、九条」
「ん、オレも逆に捗ったよ、勉強」
そんな風に言ってくれるので、ほんと、嬉しくなってしまう。
「九条、今日さ、何か食べに行かない? おごる! 母さんから軍資金が出たんだ」
「ん? 軍資金?」
「勉強教えてくれた子と、昼ご飯食べてきたらって。その後遊べる?」
「あーでもオレ今日昼の後……」
「あ、何か用事?」
「ご飯食べたら、眼鏡変えに店行こうと思って。ほら、度が合わないって、話したろ?」
「あ、オレ、それ一緒に行きたいって言ったじゃん」
「あれ本気だったの?」
「もちろん本気だけど」
そう答えると、九条は柔らかく笑った。
「じゃあ、付き合ってもらっていい?」
「うん、もちろん」
そんなこんなで、九条がラーメンを食べたいというので、学校からそのまま駅前のラーメン屋にやって来た。
奥のテーブル席に座って、注文を済ませて、水を一口飲む。
……ふと、ここ数日、言いたかったことを思い出した。
「なあ九条。テストが終わってから言おうと思って……我慢してたんだけど、オレ」
「……ん、何?」
オレは、九条を真正面から見つめた。
「九条って背ぇ高いじゃん?」
「? まあ……うん」
「脚も長いじゃん」
「……そう?」
九条が首を傾げている。
「否定するの嫌味だから、そこは頷いてよ」
「……はあ」
九条が変な顔をしながらオレを見ている。
「顔も、悪くないじゃん?」
「……はあ?」
「だからね、何で、それぞれは悪くないのに、何でそんなにもっさりしてるのか、オレ、考えたんだけど」
そう言ったら、九条は、ぷっと笑い出して、苦笑いを浮かべた。
「……何それ、さっきから褒めてんのかと思ったら、けなそうとしてる?」
面白そうにくっくっ、と笑ってる。
「つか、綾瀬。何? もっさりって。髪?」
そんな風に言いながら、九条が自分の髪に触れている。
「もっさりしてる、かなあ?」
「んー、髪型だけじゃなくて、もうなんか、全体的にもっさりって感じなんだよね」
むー、とむくれて言うと。
「ていうか、何で綾瀬はそんな失礼なこと言って……そんでもって、何で綾瀬がムッとしてるんだよ?」
怒るわけではなく、余裕な感じで笑いながら、九条はそう言ってくる。