現在私たちは盗賊のアジトへむかっているところです。
 隊列はフィオ、カイル、タミルさん私の順。私は殿(しんがり)と、鼻と耳が効く『吸血族』ということで後方の索敵を任されました。 テオは気配を消して近くで見ている筈ですが……、まったくわからない……。
 今回盗賊団の殲滅が目的という事で余計な戦闘は避けるべきです。盗賊たちに気づかれかねません。
 したがって隠密行動をとる必要があるのですが、斥候であるフィオは流石としてカイルとタミルさんはなっていませんね。私はスキルの他にその辺の心得もあるので、割と早い段階で指摘したのですがカイルは完全に無視してくれやがりましたよ。殿だったのは引き攣った顔を見られなかったという意味で幸いでした。対してタミルさんはしっかり聞いてくれたようで、始めよりかなりマシになっています。
 ちなみに撤退の判断は一番落ち着いているタミルさんに任せることになっています。


 ギルドを出てかれこれ二時間。情報通りの位置に盗賊団の寝ぐららしき洞窟がありました。

「アレがそれか。おい、クソ猫。任せていいんだな?」
「当然!」

 一度距離をとった私たちは声を潜めて作戦会議です。
 ここまで、幸いなことに、魔物との戦闘はありませんでしたがフィオのすぐ後ろを歩いていたカイルは、フィオの腕を、少なくとも斥候としては、認めたようですね。私にはまだ敵意増し増し状態ですが。

「捕まってる人間の有無と敵の位置だけは最低でも調べるつもり。出来れば中の構造も」
「気をつけなさい」
「無理はダメですよ」
「分かってるわ。危なくなったらすぐ離脱する。生きてなきゃ昇格しても意味ないしね」

 あっけらかんとして言った彼女は、そのまま影に紛れました。
 本当は夜を待つべきなのでしょうが、洞窟には見張りもなく、洞窟の中は薄暗いであろうという事から即時決行となりました。捕まっている人がいた場合、早い方がいいですしね。特にカイルがそう主張していました。やけに拘ります。

 待つ間、魔力を極力隠します。盗賊団に魔力を探れるレベルの者はいないと思いますが、一応です。〈気配薄化〉や〈隠密〉でもできますが、敢えて〈魔力操作〉で。
 ついでにテオの気配と魔力を探っていると、

チリン
【熟練度が一定に達しました。
〈気配察知〉を獲得しました。
〈魔力察知〉を獲得しました。】

「? どうしました?」
「なんでもないわ」

 おっと、うっかりガッツポーズをしてしまいました。
 やっと手に入りましたよ“察知スキル”!
これまで匂いと音を頼りに索敵していましたが、それでは〈気配察知〉は手に入りませんでした。今回肌の感覚まで使ってテオの気配を探ってようやくです。やり方は知っていた筈なのに、自身の種族としての能力に頼りすぎていましたね。
 〈魔力察知〉も既存の能力に頼っていた結果持っていませんでした。〈魔力視〉がありましたからね。しかし〈魔力視〉では直接見なければわかりません。今やっているように魔力を隠す方法はあるにしても、索敵手段は多い方がいいです。

 ちなみにテオの居場所はまだわかりませんでした。
 ――それにしても遅いですね、フィオ。既に1時間近く経っています。

「遅いわね」
「そうですね、洞窟が思ったより広かったのかもしれません。あるいは……。あと鐘一つ分待って戻って来なければ相談しましょう」
「そうね」
「カイルさんもよろしいですか?」
「ああ」

 本当に愛想の無いやつですね。このデミドラ。……ん? ソワソワしてる?
 いえ、気のせいですね。
 しかし、フィオが失敗した可能性があるわけですか。先程察知スキルは手に入れましたがもう一つくらい索敵手段を考えておきましょう。念のためです。この三人で斥候ができるのは私だけですから。

 まず思いついたのはソナーです。魔力または気をを広げて感知するやり方。
 しかしこれは一定以上の相手には通じないでしょう。探知はできますが逆にこちらの存在も教えることになります。

 次に風で遠くの音を拾うやり方を考えました。私がいる部分の気圧を低くすれば、そこを中心に風が吹き込んでくる筈。魔力も〈隠密lv1〉で隠蔽できる程度です。
 これがいいのでは? と思いましたが、よくよく考えればそれで聞こえるような音を出しているなら〈気配察知〉で十分です。
 〈気配察知〉が届かないほど遠くの音を聞く事には使えそうなので、頭の片隅には置いておきましょう。

 うーん、なかなかいい方法がありませんね。出来れば誤魔化しようも無い間接的で物理的な方法がいいのですが……。

 ……そういえば、よくダンジョンもので風の精霊が空気の流れを感知して最短ルートへと導くやつがありますね。
 〈気配察知〉を肌感覚重視にして、先程考えた方法で風を起こします。

「!? なんだ!」

 突然の強風にカイルが警戒していますが、放置でいいでしょう。
 しかし、風が強すぎてよくわかりませんでした。今度はもう少し緩やかに…

 ――なんとなくわかりました。しかし不十分です。何か足りない。

 ……そういえば、〈鑑定眼〉って目に入りさえすれば何でも鑑定できるんでしたよね?

 私は普段より〈魔力視〉のスキルを強く発動させます。こうする事で普通なら見えない微小な魔力さえ見ることができます。そう、ただの植物や大気中にある僅かな魔力でさえも。

 この状態で〈鑑定眼〉を発動させつつ先程の行為をなぞります。
 わずかな揺らぎも見落とさないよう眼を見開いて……

「あ゛ぁぁぁ!」
「!? 大丈夫ですか、アルジェさん!?」
「おい、静かにしろ。バレるだろ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。えぇ……、……大丈夫、よ。ちょっと、はぁはぁ、実験、してみた、だけ」

 ……頭が割れるかと思いました。この周辺の地形も含めて膨大な量の情報が一気に流れ込んで来たためです。〈高速再生〉がなければ脳が焼けて死んでたかもです。
 お陰でこの辺の地形などはほぼ完璧にわかりましたが。その中に気になるものもありました。

チリン
【熟練度が一定に達しました。
〈演算領域拡張〉を覚えました。
〈演算領域拡張〉がlv5になりました。
条件を達成しました。
〈高速演算〉を覚えました。】

 ……なんか生えましたね。
 相当無理したという事でしょうね。いきなりレベル5です。
 〈高速演算〉は、生えたタイミング的に〈演算領域拡張〉のレベルが条件ですか。
 おそらくもう一度使用しても今のようにはならないでしょうが、しばらく使う気にはなれませんね……。

 タミルさんが心配そうにみています。カイルは……、何やってんだコイツって目してます。あとで痛い目に合わせてやりましょう。

「騒がせたわね。もう落ち着いたわ。ちょっと、この辺の地形とか敵の位置とか分からないかと思って新しい索敵方法の実験をしてたんだけど、その、情報量が多すぎて……」
「なるほど、索敵系のスキルを併用した時などに時々起こるらしいです。気をつけてくださいね? それで亡くなった方もいるそうなので」
「ええ、私もあんなに痛いのはもう嫌よ」
「ふん、痛みごときで」

 ……マジでこいつには痛い目にあってもらいましょう。闇属性の本質たる“負への活性化”か、光属性の“正への活性化”で精神にうまく干渉すれば……。フフフフフ……!

 とりあえず、洞窟方面に絞って〈気配察知〉を使いましたが、動きはありません。

「どうやら気づかれて無いみたい。動きは感じられないわ」
「そうですか、それは良かった」
「そうだな、一人犠牲になるところだった」
「まあまあカイルさん。そんな事言わないでください。しかし、今の声で気づかれないならかなり洞窟が深い可能性が高いですね。フィオさんが入ってからまもなく鐘一つ分経ちますが……」

 ――がさっ

 とっさに剣を〈ストレージ〉から引き抜き、音の方へ向き直ります。〈気配察知〉はきっていません。相手はそれを抜けたという事。

 私たちが警戒していると、曲者が声をかけてきました。

「さっきすごい声が聞こえたんだけど、なにかあったの? って、私よ! 武器を下ろしてちょうだい!」

 焦ってそういうのは、待ち人である『猫人族(ウェアキヤツト)』でした。息を吐いて、私たちは武器から手を離します。

「ちょっと、ね。それより、結果を聞かせてちょうだい」

 適当に誤魔化して話を変える私を生温かい目でみるタミルさん。頰に熱を感じるのは気のせいです。

「? まあいいわ。洞窟の中、かなり広いわよ。見つかりはしなかったけど全部は把握できていないわ。とりあえず人のいる場所だけは把握できたから戻ってきたわけ。ああ、松明があったから視界は問題ないわ」
「人のいる場所……。つまり捕まっている人間もいたということですか?」
「ええそうよ。色んな種族の女ね」
「それは……奴隷ね?」
「ええ。しかも違法のよ。大方奴隷商人でも襲ったんでしょう。首に〈隷属の首輪〉を嵌められてたわ」
「やっぱり……。さっき地形を調べた時に壊れた馬車を見つけたの。檻付きよ」
「なるほどね」
「それで、そいつらの位置と盗賊どもの配置はどうなんだ?」
「一番奥の方に集まってたわ。途中横道がたくさんあったけどそっちには気配なし。どうも宴会中みたいで、ほとんどが頭らしき奴と同じ部屋? で騒いでたわ。あとはその奴隷ちゃんたちの見張りに二人と、騒いでる部屋の一つ前、奴隷ちゃんたちの捕まってる部屋に繋がる横道のある部屋の入り口に二人だった。騒いでたのは正確にはわからないけど、十六人前後ってとこね。情報どおりよ」
「それじゃあ出来るだけ静かにその、入り口にいる二人と奴隷たちを見張っている二人を無力化して救出してからにしましょう」
「それがいいわね。奴隷を連れ出す時誰か残って奥の盗賊たちの動きを見ておいた方がいいわ。それは私がやるから」
「いや、念のためにもう1人残そう。おい、吸血女。お前が残れ」
「その呼び方はどうなの? まあいいわ、やりましょう。フィオを除けば私しか隠密行動うまくできないもの。代わりにしっかり彼女たちを守りなさい」
「当たり前だ。誰に言っている」
「救出後の治療は任せてください。それからアルジェさん、フィオさん、最初の二人の無力化を頼めますか?」
「もちろん。案内も任せて」
「ええいいわよ。フィオ、案内よろしくね」
「いくぞっ」

 私たちはカイルに頷き、洞窟へと足を踏み入れました。


 フィオの言ったとおり洞窟内は松明の不規則に揺れる炎によって照らされています。それほど明るくないので隠密行動はしやすいです。普通に歩いては音が響きますが、カイルも流石に、来る途中の助言に従っているようです。癇に障るやつですが、やはりただの脳筋ではないですね。癪ですが。

 殆ど音を立てることなく、影に潜んで進みます。
 三十分は確実に歩いたころ、フィオが手で私たちを制します。そして、私になにか口の動きで伝えてきました。

 今いるのは光の届いていない闇の中。男二人にはほとんど見えていないでしょうが、『吸血族』である私と『猫人族』のフィオの目にはハッキリ見える程度です。

 私が読み取ったのは『この角の先にいる』ということです。
 私は一つ頷くと側にいるおそらく殆ど見えていないだろう二人の肩を叩きました。
 こちらを見た二人は私の言わんとすることを察したのでしょう。フィオと私を交互にみて頷きます。

 フィオと二人、スキルを発動させて闇に紛れます。角の先はこれまで以上に明るく照らされていますが、問題ありません。

 ちらっと覗けば、盗賊たちは互いに愚痴を言い合ってるようです。
 念のために足元の石を天井スレスレを通るように放ります。盗賊二人の頭上をこえ、後方の部屋に落ちた石は彼らの注意を引きます。
 そしてそれを見た瞬間飛び出した二つの影に気づくことなく、盗賊たちの首は落ちました。
 音を立てぬようまだ生暖かい人だった物を受け止め、暗がりに移動してからゆっくり下ろします。

 そのころには身を潜めていた二人も、この部屋に唯一ある、おそらく奴隷たちが捕まっているだろう部屋の入り口の壁に張り付いていました。

「やっと交代だ。入り口のやつらもよんでさっさと行こうぜ」
「まったく今日当番じゃないやつらはずりーよな。せっかくの宴会だってのに」

 その声を聞いて私たちは一瞬固まります。見れば、カイルとタミルさんが頷きあっています。自分たちでそのまま処理するつもりでしょう。私たち暗殺組はそのまま影で息を殺します。

「ふっ」
「はっ」

 二人が鋭い呼気の音と共に、通路から出てきた盗賊たちに武器を振り下ろしました。
 少々タミルさんが殴った時の音がありましたが、見事に意識を刈り取った二人は私たちの真似をしてゆっくり死体を下ろします。
 タミルさんが振り下ろしたのは刃の無い杖でしたが、堂に入ったその一撃はしっかり盗賊の命にとどいていたようです。

 一息つく間もなく私たちは、そのまま通路へ移動します。もちろん盗賊たちは影に隠してから。
 見張りとして残るのはフィオ。本当はここでも二人でのこるべきですが、同じ女性がいた方が彼女たちも安心するでしょう。

「盗賊の討伐に来ました、冒険者です。そのまま静かにお願いします。ここから脱出します」

 奴隷の女性たちが閉じ込められていた部屋に着いてすぐ、私が声をかけます。
 オロオロしながらも指示に従ってくれる女性たち。その中に1人、動こうとしない少女がいました。 薄汚れてはいますが、獣人の、人間で言えば十五、六歳くらいに見える少女。おそらく『狼人族(ウェアウルフ)』。

「もう大丈夫です。助けに来ましたよ」

 他の女性たちをカイルとタミルさんに任せて、出来るだけ優しい声で語りかけます。

「いい」

 帰って来たのは、一言の拒絶。

「何故ですか?」
「……私は忌子だから。ここで死んだ方が、みんな幸せ」

 これは……。

「……知っていますか? 盗賊の持ち物は、盗賊の討伐者に権利が発生します。奴隷もそうです。つまり、今あなたは私のものです。命令です。ついて来なさい」

 あまりいい方法ではないのですが、他になさそうです。渋々少女はついて来ます。

「いくわよ」
「……」

 カイルは何か言いたい事があるようですが、後です。今は早く脱出しなければ。

「無事救出できたのね。まだあいつら気づいてないみたい」
「それは上々。みなさん、この二人が外まで連れてってくれます。私は盗賊たちの様子をみてから追いつきますので」

 女性たちは不安そうにしています。男である二人を警戒しているのでしょう。

「彼らは大丈夫です。ゆっくりでもいいので、出来るだけ静かに移動してくださいね」

 そこまで言うと、ぎこちないながらもそれぞれ頷いてくれました。
 例の少女も一応従ってくれるようです。
 安堵して盗賊たちが騒いでいる奥の方に目をやると、目が合いました。見張りの交代に来ただろう盗賊の男たちと。

「しっ、侵入者だー! 女どもを連れて行く気だ!」
「ちっ! おい、走れ!」

 慌てて駆け出す女たち。しかしずっと自由に動き回れなかった彼女たちのかける速度は、冒険者である私たちや盗賊たちからすれば亀の歩みに等しいです。
 声に気づいて追いかけて来ただろう足音がもうすぐそこに聞こえます。
 この薄暗い洞窟内をかけるならフィオは必要。〈杖術〉で近接戦も多少できるとはいえ魔法使いであるタミルさんに乱戦は辛い。なら!

「先に行きなさい! フィオ、先導を! タミルさんもお願い! カイルは私とコイツらやるわよ!」
「命令すんじゃねぇ!」
「頼んだわよ!」
「こちらは任せてください!」

 文句を言いつつカイルは剣を抜きます。
 私も〈ストレージ〉から〈母なる塔の剣〉を取り出し臨戦態勢移ります。

「お前らメシダネをにがすんじゃねえぞ! 相手はたったの二人だ。女の方はとっ捕まえて男はさっさと殺しちまえ!」

 上位者っぽいのがなにやら叫んでます。気配的にボスはまだ来てません。しかし舐められたものですね。

「ふっ」

 私は跳躍して盗賊たちのど真ん中に着地し、大剣を振り回します。それだけで五人がただの肉片になりました。
 私の剣の外周に居た奴らはカイルが仕留めます。

「なっ、化け物かこの女」
「やべぇ、俺は逃げるぞ!」

 今のをみて早速逃げようとする盗賊たち。引き返して行くということはどこかに通路があるのでしょう。フィオは何も言っていなかったということは隠し通路の類。

「逃がしません!」

 カイルと二人追走します。
 追いついては斬って、追いついては斬って。
 合わせて五人を片付けたころ、たどり着いたのは洞窟の最奥。盗賊団の頭がいる部屋です。

「あん? なんだお前ら。なんで戻ってきた?」
「お、お頭! 化け物が!」
「はぁ? ん? そこの二人の事か?」
「ヒィ! そうです。特にあの女の方! 一撃で5人も……!!」
「たく、情けねえ。おい、お前ら! 下っ端どもに手本見せてやれ!」
「「「へい!」」」

 会話的に幹部的なやつらでしょう。四人の男が前に出てきます。私たちから逃げ切った二人はお頭とやらの後ろで震えるのみ。

「さっさと片付けるわよ」
「だから命令すんじゃねぇよ!」
「ちっ、舐めやがって!」

 キレた幹部Aが短剣で切りかかってきます。なんか剣身が濡れてます。毒ですかね?

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〈バジリスクの石化毒〉希少(希釈)
バジリスクの毒腺から採取できる猛毒。
皮膚についただけでその部分から順に石化させていく。濃度によっては一滴で大の男を丸々石にしてしまう効果がある。

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 おっと鑑定できました。

「あれ、バジリスクの毒みたいだから触っちゃだめよ?」
「お前鑑定できたのかよ」
「あら、言ってなかったかしら?」
「ちっ、まあいい。おらよ!」

 カイルは透明なオーラのようなものを纏わせた剣を、まだ距離のある状態で振り抜きました。
 すると幹部Aは真っ二つ。何あれ。オーラを飛ばした?多分あれが“気”だと思うんですが……。やってみましょう。

「えっと、こうかしら?」

 まだ気を扱えないので代りに魔力を飛ばします。
 あ、できましたね。幹部B〜Dの上半身と下半身がバイバイしましたよ。感覚としては私が弘人だった頃に習っていた流派の技に近いですね。

「てめっ、人の技を!」
「別にいいじゃない。減るもんじゃなしに。ってあら? 盗賊たちは?」
「は? おい! お前のせいで逃しちまったじゃねぇか!」

 まったくうるさいですね。〈気配察知〉を使えば分かりますよ。

「いたわ」
「ならさっさと案内しろ!」

 本当にうるさいです。お頭さんはどうやら壁の向こう側にある隠し通路を進んでいるようです。もう面倒だから魔法で吹き飛ばしましょう。現状ならまだ生死確認も可能です。

「はぁ。ちょっと退きなさい」
「だから、あ」ドゴォォォン!

 土魔導で天井を補強しつつ、的のいるあたりに向けて[ファイヤーボール]を撃ちます。なにか聞こえたのは気のせいです。

 んー? うん。ちゃんと死んでますね。それじゃあ帰りましょうか。

「おい、なに無視して帰ろうとしてる。何だこれは?」
「魔法で吹き飛ばしただけですが?」
「………」
「………」

 暫く見つめ合う私たち。甘い空気などありません。

「ちっ。もういい、いくぞ!」

 まったく、勝手な男ですね。

 洞窟を出ると、女性たちとタミルさん、それから財宝らしきものを持ってニコニコのフィオがいました。

「お疲れ様です。何やら爆発音が聞こえましたが、大丈夫だったようでホッとしてます」

 安堵の微笑みと共に労ってくれるタミルさん。

「おつかれ〜。ちゃんと盗賊団のお宝取ってきといたわよ」
「取ってきといたわよって、何してるのよアナタ」

 私が呆れながら言うと、目の前の猫はなんの悪気もなくいいます。

「洞窟を出た後彼女たちをタミルにまかせて私だけ戻ろうとしたんだけどね? なんか奥からすっごい悲鳴とか聞こえてくるし、私要らないかなーって。だから財宝だけ回収してきたってわけ」

 ジト目を向ける私たちに、フィオは笑うのみです。

「はぁ、もういいわ。それより戻りましょうか。ああ、爆発音は私の魔法です。洞窟の補強もしてから撃ちましたし、ご心配なく」
「なるほど、そうでしたか」
「この吸血女、色々隠してやがった」
「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい」

 聞かれなかったから言わなかっただけです。

 ともかく私たちはその場を後にして、リムリアに戻ったのでした。